オプジーボなど免疫チェックポイント阻害薬の使用で1型糖尿病が惹起される

25/04/2017

免疫チェックポイント阻害薬の使用で1型糖尿病が惹起される

オプジーボ 劇症1型糖尿病

免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体薬を投与後に1型糖尿病を発症したという報告が内外から相次いでいます。

癌免疫療法に使用される抗PD-1抗体薬

抗PD-1抗体薬は、癌免疫療法に使用される薬剤です。従来の抗癌剤は癌細胞に対する毒性を利用して抗癌作用を発揮するのに対して、抗PD-1抗体薬は癌細胞を排除する免疫機構を活性化することで抗癌作用を発揮します。

一般的にT細胞による免疫反応では、T細胞側の受容体が抗原提示細胞から主要組織適合抗原複合体(MHC)抗原とともに提示される特異的な抗原を認識することにより、T細胞の活性化シグナルが伝達されます。具体的抗原として、ウイルス(由来)や細菌(由来)のペプチドを想定すれば感染防御に関与した免疫反応ですし、癌細胞(由来)のペプチドを想定すれば癌免疫に関与した反応、自己のペプチドを想定すれば自己免疫疾患に関与した反応となります。これらの免疫反応は、抗原の量や受容体の発現量による調節以外に、種々の制御を受けており、その1つにPD-1の関与する制御系があります。PD-1はT細胞に発現している分子で、そのリガンドである抗原提示細胞のPD-L1/L2と結合することで、免疫反応を負に制御するシグナルをT細胞側に伝達します(T細胞を不活性化します)。

一方、癌細胞が宿主の免疫機構から逃れるメカニズムの1つとして、癌細胞自身がPD-L1を発現することが知られています。抗PD-1抗体薬は癌細胞とT細胞間のPD-lとPD-L1の反応をブロックすることで免疫反応を活性化させ、癌細胞を排除しようとするのがその作用機序です。このような薬剤は免疫チェックポイント阻害薬と総称されており、T細胞に発現し、同じく免疫反応を負に制御する細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (CTLA-4)に対する抗体薬などが含まれます。

幅広く使用される抗PD-1抗体薬

2017年1月末の時点で、日本で販売されている抗PD-1抗体薬はニボルマブ(オプジーボ)ですが、最初に使用が認められた悪性黒色腫に加え非小細胞肺癌、腎細胞癌、ホジキンリンパ腫に適応が鉱大されています。特に肺癌に対する適応鉱大により投与症例が著しく増加しました。今後もさらに適応拡大と投与症例の増加が想定されます。

抗PD-1抗体薬は前述のような作用機序から、癌免疫以外の過剰な免疫反応を惹起することが推測されます。l型糖尿病も免疫異常が関与して発症する疾患であり、実際、抗PD-1抗体薬投与後に1型糖尿病を発症した症例が内外から報告されています。日本におけるニボルマブ投与後に発症した1型糖尿病の報告は41例あり、発症率は約0.28%です(2017年1月末現在、製造販売会社の資料による)。
日本では1型糖尿病は主に発症時の経過により、「急性発症」「劇症」「緩徐進行」の3つの病型に分類されます。このうち、抗PD-1抗体薬投与後の1型糖尿病は劇症1型糖尿病の診断基準を満たす症例が多く、急性発症1型糖尿病の診断基準を満たす症例も報告されています。すなわち、抗PD-1抗体薬投与後に発症する糖尿病は急激なものが多く、できるだけ早期に診断し、治療を開始する必要があるのです。診断が遅れると予後に影響するのが劇症1型糖尿病の特徴です。

また、報告例には口渇・多飲などの高血糖症状を認めない症例もあること、抗PD-1抗体薬投与開始から糖尿病発症までの期間は各症例でまちまちであることから、抗PD-1抗体薬投与の際は全例において1型糖尿病の発症を念頭におき、発症時には遅滞なく対応することが重要です。

このような現状に対し、日本糖尿病学会では「免疫チェックポイント阻害薬使用患者における1型糖尿病の発症に関するRecommendation」を示し、警告しています。このRecommendationは、ニポルマプ投与開始前、および投与開始後来院日ごとに、高血糖症状の有無を確認し、血糖値を測定することなどの内容で、糖尿病専門医よりも、むしろl型糖尿病の診療経験がない癌治療担当医(皮膚科医.呼吸器内科医など)を対象としたものです。1型糖尿病の診療に従事していて、コンサルテーションを受ける立場としては通常通り劇症1型糖尿病を含む1型糖尿病を適切かつ丁寧に診断し、治療するだけです。しかし、そこからさらに踏み込んで、Recommendationの情報を他科とも共有し、1型糖尿病発症の可能性についての啓発や、癌治療担当医、糖尿病専門医および薬剤師、看護師などを含めた医療チームを育成するといった対応に発展すれば理想的でしょう。
多くの抗PD-1抗体薬投与症例のうち、どのような症例がどのような時期に1型糖尿病を発症するのか。リスクファクターは何か。解明するべき課題は山積しています。発症に遺伝因子の関与も想定されますが、投与開始から糖尿病発症までの期間はまちまちであり、何らかの修飾因子の存在も考えられます。
現在、日本糖尿病学会の日本人1型糖尿病の成因、診噺、病態、治療に関する調査研究委員会において「抗ヒトPD-1/PD-L1抗体投与後に発症する1型糖尿病に関する疫学調査」の症例募集が行われています。今後、できるだけ多くの糖尿病医による診療データを集積し、「抗PD-1抗体投与後発症型糖尿病」の症例を理解し、病態を解明することが重要と思われます。