SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の併用

01/05/2017

SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の併用

SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の併用

DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬との組み合わせや、速効型インスリン分泌促進薬との組み合わせが望ましい

低血糖を起こさずに、食後高血糖を抑制してくれるという意味では、DPP-4阻害剤やGLP-1受容体作動薬が良い選択です。しかし、この2剤だけでは早朝空腹時血糖値を抑えてはくれません。そこにSGLT2阻害薬を追加すれば、早朝空腹時血糖値の安定はSGLT2阻害薬に、食後高血糖はインクレチン関連薬にまかせるというような役割分担ができます。

あるいは、SGLT2阻害薬を最初に服用していてそれでも血糖コントロールが十分でなかった場合には、SU剤との併用も大丈夫ですが、速効型インスリン分泌促進薬との併用であればより安全です。

SGLT2阻害薬、あるいはDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬で、非常に血糖コントロールが改善したとします。その場合、そこにSU剤や速効型インスリン分泌促進薬のような膵臓からインスリンを分泌させる薬剤を併用すると、低血糖を起こす危険性があります。速効型インスリン分泌促進薬(例えば、スターシスやグルファストなど)あるいは、グルベス(速効型インスリン分泌促進薬とαグルコシダーゼ阻害剤との合剤)であればかならず食事とペアで内服しますから、SU剤よりも低血糖になりにくく安心です。αグルコシダーゼ阻害剤は、腸管内でブドウ糖の吸収を遅らせるだけで、吸収自体を阻害するわけではありません。ですから、エネルギーを放出するわけではなく、ダイエットには繋がりません。それに対し、SGLT2阻害薬はエネルギーを放出するのでダイエットに繋がります。同じブドウ糖の吸収を阻害する薬剤でも、作用も効果も異なります。

SGLT2阻害薬の作用

「阻害薬」とはDPP-4「阻害薬」と同様、ある機能の邪魔をする薬剤のことです。ですから、SGLT2阻害薬はブドウ糖の再吸収を阻止し、尿と一緒に体外に排出し血糖値を下げる薬剤です。いくら飲んでも、食べても体内に取り込んだ余分な糖を排出してくれるという薬剤です。一部の遺伝的な糖尿病の患者では、SGLTやGLUTというブドウ糖を運ぶ役割の機能が、体内へのブドウ糖の吸収を促進させます。GLUTというのは、一般の患者さんはは覚えておく必要がありませんが、糖質を体内の細胞の中に移動させる時に大切なものです。SGLT2阻害薬を内服することで糖尿病の原因を絶ちきるということになります。糖尿病が治る、という言葉も嘘ではなくなります。SGLT2阻害薬が使いやすくなってきました。発売当初は積極的投与に対する慎重論が根強くありましたが、正しく使えば非常に有用な薬剤であることが分かってきたからです。血圧を下げる、体重下げる、血糖も改善する。SGLT2阻害薬は朝の空腹時血糖を安定化させます。HbA1cも下がります。副作用も少なく、多少水を飲む量が増え、排尿が増えるだけです。SGLT2阻害薬は高血糖ほどよく効きます(血糖応答性の作用があります)。高血糖になると、SGLT2阻害薬は尿糖を排泄します。血糖値が200mg/dl以上になる状態では、尿量は多量になり、血糖値上昇を抑制する作用が著しく発揮されます。正常血糖値にはSGLT2阻害薬を服用していても尿糖はでてきません。その意味ではDPP-4阻害薬と同様、血糖値にあわせて血糖コントロールをしてくれるという便利な側面があります。

この薬の主たる作用は、余分な血糖を尿糖として体外に排泄するだけです。ですから、副作用の心配も少なく他の臓器に与える影響も少ないと考えられます。結果的に、血糖コントロールを改善することでインスリン抵抗性を改善する働きがあり、肝臓でのブドウ糖の生成を抑制するなど動物実験などで報告されています。糖毒性を解除するのです。

SGLT2とは、Sodium Glucose co-Transporter type2を略したものです。日本語では「ナトリウム・ブドウ糖共輸送担体2」などと略します。血液はまず腎臓の毛細血管の塊である糸球体からろ過され、尿の原料「原尿」になります。さらにこの原尿が「尿細管」を流れる間に必要な成分は再び血液中に吸収され、逆に不要な成分はさらに分泌されて尿となります。
この複雑な処理を行うおかげで、血液成分を一定保たれます。この作業を「再吸収」と言います。ブドウ糖だけでなくナトリウムなども再吸収され、身体に大切な物質ほどこの再吸収で身体に戻されます。

SGLT2はこの「尿細管」に存在していて、体外へ排出されようとしているブドウ糖などを、もったいない、もう一度体の中で使わせてください、といって体の中に再度吸収する働きをしています。SGLT2阻害薬は血糖値180mg/dlの時に再吸収する働きを、血糖値130mg/dlの時に再吸収させる薬です。体内の維持力バランスを崩す薬といえるでしょう。この変更によって体内のホメオスタシスがもし多少狂ったとしても、糖尿病の治療において本質的な体質改善治療薬であることは間違いありません。このホメオスタシスが壊れることに抵抗があるなど、今後、糖尿病治療はその人の価値観の問題も関わってくるかもしれません。医師の処方権が患者側に渡り、患者が自分自身で飲む薬を選択していくという将来もそう遠くはありません。

SGLT2阻害薬は従来の経口糖尿病薬、SU剤、ピオグリタゾンなどとは一線を画す薬剤です。従来の薬剤はエネルギーを体内で増加させる薬剤でした。ですから、体重が増加します。インスリンもそうです。従来の薬はエネルギーを無駄にしないことが大原則でした。しかし、SGLT2阻害薬はその大原則を覆す画期的な薬剤です。エネルギーの無駄使いを許してしまう薬です。糖尿病患者で肥満であれば、まずSGLT2阻害剤を処方するのが第一選択薬剤になるでしょう。また、メトフォルミンの大量投与も体重減少をおこします。注射が嫌でなければ、GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ、バイエッタ、リキスミア、ビデュリオン、トルリシティ)でも、体重を減らすことができます。メトホルミンは、食欲低下や悪心・脱力感などを伴います。GLP-1受容体作動薬は注射をしなくてはいけないので精神的、心理的負担が大きいです。こういった消化器症状などに異常が起こらないという意味で、SGLT2阻害薬は最も安心して、楽に体重を減らせる抗肥満薬と言えます。ですからSGLT2阻害薬は、肥満を伴う糖尿病患者に対してDPP-4阻害剤よりも、より優先して内服したほうがよいと言える薬です。

もったいないともいえますが、エネルギーロスを自動的にすることから「自然なダイエット」ができるので、患者さん自身では食事療法や運動療法に対して努力したつもりがないのに、自然とエネルギーを体外に放出するため、その結果、血糖値が下がり血糖コントロールが良好になり、体重も減っていく、という2つの現象が同時に生じます。この2つの特徴だけを考えると、肥満が原因で糖尿病を起こした患者にとっては「魔法の薬」のようです。欠点は、食べても血糖値が上がらないため、患者が安心して食事療法を守らなくなってしまう可能性があることです。ちょっとしたつまみ食いに、ブレーキがかからなくなってしまう可能性があります。身体がエネルギー(特にブドウ糖)を欲してしまうため、過食傾向になるかもしれません。SGLT2阻害薬は、エネルギーを貯蔵せず、放出させる薬剤です。それにより体重が減り、脂肪肝が改善します。つまりダイエットと同じです。すると、体内のエネルギーが枯渇状態になりますから、脂肪が分解された結果、ケトン体が増加してくるかもしれません。ただし、体重が減るのは、もともと高血糖がある糖尿病の患者さんだけです。血糖値が高くない、健常人がSGLT2阻害剤を服用すると、単なる「腹がへるだけの薬剤」になり、過食になり、体重が増えてしまうことも多々あります。ですから、健康な人には、苦労しないダイエット薬剤にはなりません。困ったデメリットは「治った」と誤解してしまう「油断」でしょうか。SGLT2阻害薬は体重が減り、HbA1cが下がり、空腹時血糖値が下がります。患者の中には血糖自己測定を行っており、朝の血糖値がいつも一定になったので自己測定をやめてしまった患者もでてくることでしょう。低血糖にならないし、HbA1cも改善すればわざわざ指に針をさして血糖値を測定するきにもならないのは当然です。HbA1cが改善していて、かつ、体重が減ったということになると誰でもが安心してしまうことになります。

もう食べても安心だと思い、ついつい食べてしまうこともあるでしょう。体重が減るなら、もう大丈夫!と思って、ついつい過食をしてしまうこともあるでしょう。そうなると、他の糖尿病治療薬と同じように、二次無効が起こらないとはかぎりません。かえって二次無効を引き起こしやすくなる可能性もあります。それは、これからの課題といえます。

DPP-4阻害剤を内服して血糖コントロールができると、糖尿病合併症は減少します。SGLT2阻害薬は血糖コントロールが大いに期待できる薬です。例えば糖尿病末梢神経障害などの改善が顕著に認められることが予想されます。HbA1c 7%未満になると、末梢神経障害を推定する神経伝導速度が改善します。糖尿病で高血糖が続くと糖尿病腎症がおこり、尿中に微量アルブミンが排出されるなど、次第に腎臓の機能が低下していきます。SGLT2阻害薬は、糖尿病によって腎臓にもたらされる悪影響を改善することが、動物実験で確証されています。ですから、SGLT2阻害薬は腎臓に作用する薬だから危険ではなく、腎臓に作用する薬だから安全と考えることができるのです。腎臓を保護し、その機能を守ってくれる新薬なのです。

1型糖尿病への適応取得に向けて進んでいる

SGLT2阻害薬は腎臓の尿細管に働きかけるだけで、腎臓機能を悪化させません。また、インスリンの有無とは関係なく作用します。そうなると、SGLT2阻害薬はインスリンの分泌がほとんどなく、高血糖状態を継続している1型糖尿病にも応用できる可能性があります。
膵臓のβ細胞を破壊した動物実験でも、SGLT2阻害薬により随時血糖値(絶食しない時に、随時、測定した血糖値のこと)や、絶食時の血糖値もともに低下し、8週間のHbA1cの観察でも改善することが報告されています。実際に複数のSGLT2阻害薬を1型糖尿病患者さんに使用する治験が進んでいて、数年後には実際に使用できるようになるでしょう。

2型糖尿病では、インスリンの分泌能を改善する

SGLT2阻害薬を使用すると、尿に糖を排泄します。その分膵臓からインスリン分泌をしなくてはいけないという負担は減ります。そのため、膵臓のインスリン分泌機能は改善することが動物実験でも報告されています。

尿量の増加、頻尿は気にならないことが多い

動物実験では、尿量の増加は認められないという報告がありますが、HbA1cが高い人ほど水分を多く取り、尿量を増やし、体内にたまった余分な血糖値を尿に排出します。その意味は、血糖コントロールがよい人ほど尿量はさほど増えません。逆に、血糖コントロールが悪い人ほど尿量は増え、頻尿になります。なお、頻尿は夏のほうが少なく、寒くなると頻尿になりやすいので、頻尿が気になるなら、夏からSGLT2阻害薬を服用しはじめたほうが、気にならないでしょう。

SGLT2阻害薬処方時に医師が飲水指示をします

SGLT2阻害薬は尿中にブドウ糖を排出する作用があるので、医師は水分を多く取ってくださいと指示し、そのためトイレが近くなります。そのためトイレに行く回数が増え、頻尿になりますが、薬がよく効いている証拠なので嬉しい作用だと思える人もいるはずです。車や電車などに乗る時には不便ですが、そういう時はあらかじめ飲む水分の量を減らしておけば良いです。慣れてくれば、日常生活の質を低下させるような頻尿にはならないはずです。

ただし個人差があります。膀胱炎を繰り返している女性にとっては症状が似ています。また前立腺肥大の症状がある男性は頻尿になりやすくやっかいな副作用です。

高血糖であればあるほど頻尿になりやすいので、血糖コントロールができてくるまでは頻尿を避ける事を優先させるか、まずは血糖コントロールを優先させるのかという選択にせまられ迫られることもあるでしょう。
他には、水を沢山飲むようになり、それにより頻尿になるので、あたかも利尿剤を飲んでいるような状態になることがあるでしょう。そうなると尿量が多すぎてカリウムが大量に排泄され、低カリウム血症になるかもしれません。ですから、医師から処方をうける時には、定期的に採血をしてカリウム値を検査するようにし、もし低カリウム血症になるようであればカリウムを補充するような薬を内服したり、食材でカリウムが摂取する工夫が必要だと考えられます。

SGLT2阻害薬の用量を増やしていけばいくほど、尿糖の排泄量も増えます。また尿中に沢山のブドウ糖が排出されているので、尿が甘い匂いがすると思う患者さんも増えてくることでしょう。

甘い尿が出ますから、陰部を綺麗にしておかないと尿路感染症、性器感染症が増えるとされています。入浴の習慣のある日本人の場合、外国人よりも少ないのですが、注意は必要です。その場合すぐに医師に相談し、適切な抗生剤治療を受けてください。

夏場の脱水症に注意

SGLT2阻害薬を内服している患者さんは脱水にならないように注意しなくてはいけません。熱中症を起こしやすい真夏は要注意です。また、意外ですが寒くて喉が乾きにくい冬季委も注意が必要です。そのため、どんな季節でもSGLT2阻害薬を服用している間はできるだけ沢山の水分を取る必要があります。そのため多尿、頻尿になりやすいのです。