脂肪肝について
日本に2,000万人いるといわれている脂肪肝。放っておいて良いと言われていましたが、最近になって一部の方が肝硬変、肝細胞癌に進行することがわかってきました。10人に一人は肝細胞癌になってしまうのです。これからは、脂肪肝を注意深く診ていく時代です。
アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝
肝臓に脂肪が溜まってしまった状態を脂肪肝といいます。
脂肪肝は大きく2つに分けられます。飲酒によって引き起こされるアルコール性脂肪肝と、お酒は飲まない・もしくは少量しか飲まない人に起きる非アルコール性の脂肪肝に分けられます。このページでは非アルコール性の脂肪肝について述べます。
かつて脂肪肝は良性の疾患として放置されることもありました。近年は肝炎や、さらに深刻な障害であるMASHに発展する可能性が示唆されており、発覚次第速やかに治療が必要な疾患として考えられています。
代謝異常に関連する脂肪性肝疾患:Metabolic dysfunction associated steatotic liver disease : MASLD
非アルコール性の脂肪肝から脂肪肝炎や肝硬変に進行した状態までを含む一連の肝臓病のことを「代謝異常に関連する脂肪性肝疾患」(英語表記Metabolic dysfunction associated steatotic liver disease:MASLDといいます。MASLDはアルコールを除くいろいろな原因で起こる脂肪肝の総称です。MASLDは心血管疾患1)、2型糖尿病2)、慢性腎臓病3)の独立した危険因子であることがわかっています。実際、90%以上の症例で肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症等の生活習慣病を合併しています。MASLDの8割から9割は炎症や線維化を伴わない脂肪肝で「単純性脂肪肝」と呼ばれています。MASLD発生のメカニズムは、インスリン抵抗性、酸化ストレス、脂質の過酸化、ミトコンドリア機能不全などさまざまな因子が関与しています。「非アルコール性」となっていますが、飲酒量は必ずしもゼロでなくてもよく、少量の飲酒をしている人にみられる脂肪肝もMASLDに含まれます。1日あたり純エタノールとして男性で30g以上、女性では20g以上のお酒を毎日飲み続けるとアルコール性肝障害を起こすことがあるといわれており、これはビールならば男性で1日あたり750mL(大瓶1本強)、日本酒なら1合半、ワインはグラス2杯半、ウイスキーではダブルで1杯半に相当します。つまり、これよりも1日の飲酒量が少ない人(女性ではその2/3よりも少ない人)にみられる脂肪肝がMASLDということになります。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)
MASH(Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis、代謝異常関連脂肪肝炎)は炎症や線維化を伴い、肝硬変症や肝細胞癌に進展するタイプの肝炎を伴った脂肪肝です。MASHはMASLDのなかで炎症や線維化を伴い、肝硬変症や肝がんに進展するタイプの脂肪肝と言えます。単純性脂肪肝からMASHへ進行することもあります。また、狭心症や心筋梗塞といった心疾患を合併する確率は高く、自覚がないまま放置しておくと危険です。
困ったことに、NASHに目立った自覚症状はありません。それは、肝臓は再生能力・代償能力に優れ、ダメージを受けても残った正常細胞が余分に働き、機能を維持するからです。肝臓は痛みなどの症状を出すことがあまりないので、そのため肝臓に異常があっても気付かず、異常に気付いたときには病気がかなり進んでいることがあります。そのため、定期的な健診を受けて、肝臓の数値を把握することが重要です。
1)Targher G, et al. Non-alcholic fatty liver disease and risk of incident cardiovascular disease: a meta-analysis. J Hepatol 2016;65:589-600.
2)Mantovani A, et al. Non-alcholic fatty liver disease and risk of incident type 2 diabetes: a-meta analysis. Diabetes Care 2018;41:372-382.
3)Mantovani A, et al. Non-alcholic fatty liver disease increases risk of incident chronic kidney disease: a systematic riview and meta-analysis.Metabolism 2018;79:64-76.