ミトコンドリア糖尿病(MIDD)|インスリン分泌低下が主体
ミトコンドリア糖尿病は、主に膵β細胞のインスリン分泌能の低下によって発症します。
母系遺伝や感音性難聴、心筋症などを合併しやすく、早期からのインスリン治療とCGM活用が重要です。

🔎 要点まとめ
- 病態の主軸は「膵β細胞のインスリン分泌低下」(ミトコンドリアATP産生低下に伴う刺激-分泌連関の障害)(出典:1)
- 母系遺伝(mtDNA変異、とくにm.3243A>Gが代表)(出典:2)、感音性難聴・心筋症・腎症など多臓器症状を合併しうる(出典:3)
- 早期からのインスリン療法が基本(出典:4)。GLP-1受容体作動薬などは併用候補(出典:5)。SGLT2阻害薬はDKAに配慮(出典:6)、メトホルミンは乳酸アシドーシスに注意(出典:7)
- 遺伝学的検査が重要(出典:8)。血液陰性でも尿上皮細胞など別検体で検出されることがあります(ヘテロプラスミー)(出典:9)
- CGMやCSII(インスリンポンプ)を活用し、低血糖を避けながらフラットな血糖を目指します(出典:10)
ミトコンドリア糖尿病は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を背景とする糖尿病で、膵β細胞のインスリン分泌不全が病態の中心です(出典:2)。代表的な病型にMIDD(maternally inherited diabetes and deafness:母系遺伝の糖尿病と難聴)があります。やせ〜標準体型での発症、比較的若年での発症、感音性難聴や心筋症・腎症など多臓器所見の併存が臨床上の特徴です(出典:3)。
診断の考え方
- 疑う場面:母系遺伝の糖尿病歴/やせ~標準体型/早期からインスリンが必要/感音性難聴・心筋症・腎症などの併存(出典:4)
- 糖尿病評価:血糖、HbA1c、Cペプチド(空腹時・負荷後)、(必要に応じ)膵島自己抗体(出典:1)
- 遺伝学的検査:代表変異 m.3243A>G(MT-TL1)(出典:8)。血液で陰性でも尿上皮細胞・筋など別検体で検出されることがあります(ヘテロプラスミー)(出典:9)
- 関連臓器の評価:聴力、心(心電図・心エコー)、腎(尿アルブミン・eGFR)、眼科、神経・筋など(出典:3)
遺伝カウンセリング(実務ポイント)
- 家族歴の把握:母方の糖尿病・難聴・筋症・心筋症・腎症などを系統的に確認(出典:11)
- 検査対象と検体選択:本人が疑わしい場合は血液に加え尿上皮細胞検体も検討(出典:9)
- 家族スクリーニング:原則母系親族を中心に段階的検査の提案(倫理配慮)(出典:11)
- 生殖カウンセリング:遺伝形式と表現型多様性(ヘテロプラスミー依存)、再発リスクの不確実性を丁寧に共有(出典:8)
- 多職種連携:必要時に臨床遺伝専門医や高次医療機関へ紹介(出典:11)
治療方針と薬剤(実践)
基本方針:インスリン分泌低下が主病態のため、早期からのインスリン療法を中核に置きます(出典:4)。CGMを併用し、低血糖を避けながら目標達成。患者背景に応じて併用薬を選択します。
1) インスリン療法(中核)
- 強化インスリン療法(基礎+追加)を基本に、CSII(ポンプ)やハイブリッド閉ループの適応を積極検討(出典:10)
- CGM(Libre/Dexcom等)併用で日内変動を可視化し、フラットな血糖を目指す(TIR↑・低血糖時間↓)(出典:10)
2) 併用薬の考え方
- GLP-1受容体作動薬:酸化ストレス・ミトコンドリア機能への好影響が示唆(出典:5)
- DPP-4阻害薬:食後高血糖の抑制目的(出典:1)
- SGLT2阻害薬:インスリン不足時の(正血糖)DKAリスクに注意(出典:6)
- メトホルミン:乳酸アシドーシスに配慮(出典:7)
- イメグリミン:MIDD適応は未確立(出典:12)
- その他:SU/グリニド、TZDは慎重適応(出典:1)
3) 低血糖予防と目標設定
- CGMのTIR(70–180mg/dL)と低血糖時間最小化を両立(出典:10)
生活指導
- 食事:極端な糖質制限や断食はケトーシスや低血糖のリスク(出典:13)
- 運動:有酸素+レジスタンスを推奨(出典:14)
- シックデイルール:インスリン継続・補水・ケトン測定(出典:15)
最新の研究トピック
- GLP-1系:酸化ストレス軽減・ミトコンドリア機能改善(出典:5)
- イメグリミン:ミトコンドリア機能改善作用(出典:12)
- ピルビン酸補充:分泌改善の症例報告(出典:16)
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よくある質問(FAQ)
Q. 2型糖尿病と何が違いますか?
A. 一般的な2型はインスリン抵抗性が主体ですが、ミトコンドリア糖尿病はインスリン分泌低下が主体です。やせ〜標準体型の若年発症や感音性難聴の併存が手掛かりになります。
Q. どの治療薬が向いていますか?
A. インスリン療法が中核です。GLP-1受容体作動薬は併用候補、SGLT2阻害薬はDKAリスクに配慮、メトホルミンは乳酸アシドーシスに注意します。
Q. 遺伝子検査は必須ですか?
A. 診断や家族説明に有用です。血液で陰性でも尿上皮細胞など別検体で検出される場合があります(ヘテロプラスミー)。
Q. 妊娠や出産に影響しますか?
A. 影響しうるため、事前の計画と専門医連携が重要です。遺伝カウンセリングで再発リスクや管理方針を共有します。
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
ご不安な方は診察でご相談ください(初診可)。
TEL:047-409-6681(しもやま内科)
参考文献
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病治療ガイド 2024-2025. 文光堂, 2024.
- Maassen JA, et al. Mitochondrial diabetes: molecular mechanisms and clinical presentation. Diabetologia. 2004;47:223–234.
- 日本ミトコンドリア学会. 臨床診断基準 2020.
- 神谷英紀 ほか. ミトコンドリア糖尿病の臨床像と治療. 糖尿病. 2018;61(6):457–464.
- Kikuchi Y, et al. Efficacy of GLP-1 receptor agonists in mitochondrial diabetes mellitus: a case series. J Diabetes Investig. 2020;11(6):1574–1578.
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