インクレチンとは(GLP-1とGIP)

28/05/2016

インクレチンとは

インクレチンは消化管に存在するインスリン分泌に関連する因子で、GIP(Gastric Inhibitory Polypeptide)とGLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)があり、糖尿病治療の標的因子として研究・開発が進められています。(図1)

GIPとGLP-1

GIPは主に小腸上部のK細胞から、GLP-1は小腸下部のL細胞から分泌され、ともに糖質によるインスリン分泌を促進する作用や、膵β細胞保護作用を持っています。しかし、膵外では異なる作用を示し、GIPは脂肪細胞に作用して体重増加を引き起こす(*最近では新たな知見あり)一方、GLP-1はグルコース依存性のインスリン分泌促進、膵β細胞の増殖作用、食後のグルカゴン分泌抑制による肝糖新生の抑制、胃排泄能の抑制、中枢性食欲抑制作用など糖尿病患者さんにとって好ましい作用をいくつも持ちます。インクレチンは糖質や脂質などの腸管への流入に伴って分泌されます。糖の吸収が盛んな小腸上部ではブドウ糖が直接K細胞を刺激し食後30-60分という比較的早期からGIP分泌は起こり、その分泌量も多いです。一方、GLP-1は食物摂取の際の神経刺激あるいはL細胞へのブドウ糖の直接刺激により分泌され、2型糖尿病では分泌低下しているとの報告もあります。(図2)

GLP-1受容体作動薬

GLP-1にはグルカゴン分泌抑制、食欲抑制、食物の胃からの排出遅延,膵β細胞保護作用などを有していますが、体内ですぐにDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)によって分解されてしまうため、DPP-4により分解されにくいGLP-1受容体作動薬が開発されています。GLP-1受容体作動薬はその作用持続時間から短時間作用型と長時間作用型に大別されます。

(図はヒャクタロウ on Twitter様より)

短時間作用型と長時間作用型

「短時間作用型」は空腹時血糖値よりも食後血糖値を低下させる作用が強く、このためHbA1c低下作用は長時間作用型よりも軽度ですが、胃排出能遅延が持続するため消化器症状の出現も比較的多い反面、体重減少効果も強くなります。これに対し、「長時間作用型」は空腹時インスリン分泌を強く促進させて空腹時血糖値を強力に低下させるため、HbA1c低下作用は短時間作用型よりも強い反面、胃排出能に対しては影響が少なく、消化器症状の出現も少ない一方で体重減少効果も軽度です。すなわち、現在わが国で使用可能な6つのGLP-1受容体作動薬の臨床効果は決して同等ではなく、投与回数や保険適用上併用可能な薬剤以外にも、個々の患者の病態に合わせて各GLP-1受容体作動薬を使い分けるべきです。

GIP/GLP-1受容体作動薬


持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名マンジャロ)が、2023年4月18日に発売となり、当院でも処方開始しました。
血糖降下・体重減少効果が強いとされるGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド皮下注射(オゼンピック)を上回る効果が臨床試験で確認されており、現段階でもっとも効果の高い、インクレチン関連注射製剤です。

見直されるGIP作用

先述したように、GIPはグルカゴン分泌を抑制せず、むしろ増加させるため、血糖を上昇させる方向に働くと考えられてきました。脂肪細胞に脂肪を蓄積する働きがあり、体重増加につながる可能性もあり、糖尿病治療のターゲットとしては考慮されてこなかった経緯があります。しかし、GIPの食欲抑制効果が明らかになり、インクレチン効果はGLP-1よりも強いということもわかってきました。これからはGIPをターゲットにした治療が糖尿病治療において重要な役割を果たすようになるかもしれません。