カーボカウント

11/04/2018

カーボカウント、私にもできる?

カーボカウントをご存知でしょうか。

カーボカウントは糖尿病の食事療法をやりやすくするツールのひとつです。

「1型糖尿病患者さんの治療法なんじゃないの?」

という声があるかもしれませんが、

1型糖尿病の患者さんはもちろん、2型糖尿病でも、インスリンを使用していない患者さんでも使うことができます。

カーボカウントを正しく理解し実践することで、食事を楽しみながら血糖コントロールができるようになりますよ。

まずは、できるところからやってみませんか?

カーボカウントとは

糖尿病とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンがうまく働くなくなり、慢性的に血糖値が高くなる病気ですが、血糖値に影響を及ぼす主な栄養素は炭水化物です。良好な血糖コントロールを目的にに、食事中にどれだけ炭水化物(厳密には糖質)が含まれているのかを把握することをカーボカウントと呼びます。(カーボカウント指導テキストより)

炭水化物は、糖質と食物繊維に大きく分けられます(下図)。

炭水化物の分類

食物繊維は血糖値を上昇させる力がないため、カーボカウントでは糖質に注目して考えます。

糖質を細かく分類していくと

糖類(単糖類のブドウ糖や二糖類)

それ以外の糖アルコール・人工甘味料・多糖類(でんぶんやオリゴ糖)

に分けられます。糖アルコールや人工甘味料は血糖上昇にほぼ関与しないため、カーボカウントには算入しません。カーボカウントでは、糖質である単糖類や二糖類、三糖類以上のデンプンやオリゴ糖を計算します。

一般的には、

1カーボ=糖質10gまたは15g

として計算します。このページでは、計算しやすいように1カーボ=10gとします。

初心者にお勧めなのが、「さらにかんたん! カーボカウント」です。

このテキストは1カーボ10gで計算されていて、わかりやすいです。応用の練習問題もついていて、理解が深まります。

カーボカウントには基礎カーボカウントと応用カーボカウントがあります。基礎カーボカウントはすべての糖尿病患者を対象とした方法で、応用カーボカウントは強化インスリン療法中の糖尿病(特に1型糖尿病)患者さんを対象にしています。

基礎カーボカウント

基礎カーボカウントは、食事中の糖質量を把握し、規則正しく摂取する方法です。指示されているエネルギー量や栄養素の量から、1日に摂取できる糖質量を計算し、朝、昼、夕の3食(+必要に応じて間食)に配分します。毎食摂取する糖質量が一定になることで、食後の血糖値が安定し、血糖コントロールを改善できます。

具体的な方法を説明します。

1日の指示エネルギーが2000kcal、そのうち55%を炭水化物で摂取する方法で食事療法を行っている場合

炭水化物は1日で2000kcal×0.55=1100kcal摂取することになります。ただし、これは食物繊維も含んだ量です。食物繊維は1日の指示総エネルギーの5%が目安となるため、1日の糖質(炭水化物-食物繊維)の摂取量は、

1日の糖質摂取量(kcal)=2000kcal×(0.55-0.05)=1000kcal

となります。
炭水化物は1グラム=4kcalであり、摂取量をグラムに換算すると、

1日の糖質摂取量(g)=1000kcal÷4kcal/g=250g

1カーボ=糖質10gで計算すると、250g÷10=25カーボを3食(+間食)で分けることになります。
例えば、朝食7カーボ、昼食7カーボ、間食4カーボ、夕食7カーボのように配分します。これを目安に、毎日毎食同じ糖質量を摂取することで、食事による血糖値の上昇を一定にして管理しやすくするのが、基礎カーボカウントです。

応用カーボカウント

応用カーボカウントでは、インスリンの投与量と食事に含まれる糖質量を調整し、食後高血糖をコントロールする方法です。インスリン頻回注射療法やインスリンポンプ療法中で、特に、食事前に超速効型(または速効型)インスリンを使用している1型または2型糖尿病患者さんが対象です。原則(特に2型糖尿病では)、低血糖や体重増加、偏食などを防ぐために、基礎カーボカウントを習得した後に行います。

応用カーボカウントでは、以下の2つのインスリン量を計算します。

①現在の血糖値を目標血糖値まで改善するのに必要なインスリン量 (補正インスリン)
②これから摂る食事に必要なインスリン量

食事の前に投与するインスリン量

①現在の血糖値を目標血糖値まで改善するのに必要なインスリン量
 (補正インスリン)

インスリン効果値

現在の血糖値を目標血糖値まで改善するために必要なインスリンを補正インスリンといいます。どの程度の補正インスリンを投与するかを判断するために、1単位の超速効型インスリンにより血糖値が低下する値(インスリン効果値)を覚えていてください。

インスリン効果値を割り出す方法のひとつに、食事や前回投与した超速効型インスリンの影響がない時間帯に超速効型インスリンを打ち、3~5時間後にどの程度血糖値が低下しているかどうかを確認する、という方法があります。

例えば、現在の血糖値が300mg/dlで超速効型インスリン4単位投与した場合、4時間後の血糖値が100mg/dlだったと仮定します。
インスリン効果値=(超速効型インスリン投与前の血糖値-投与後5時間の血糖値)÷投与した超速効型インスリン量
=(300-100)÷4
=50mg/dl/単位
となります。

このほか、1日の総インスリン量からも推定することができます。
<1800ルール>※1500~2000ルールもあります

インスリン効果値(mg/dl/単位)=1800÷1日の総インスリン量

例えば、
ヒューマログ(超速効型インスリン) 朝5単位、昼5単位、夕5単位
トレシーバ(持効型溶解インスリン) 夕15単位
なら、1日の総インスリン量は30単位
インスリン効果値は=1800÷30=60
となります。

また、インスリン効果値のより簡便な目安として、

普通の体格では50mg/dl/単位、やせ型や1日の総インスリン量が30単位未満なら100mg/dl/単位

とする方法もあります。

補正インスリン

このように設定したインスリン効果値から補正インスリンを計算します。

補正インスリン=(現在の血糖値-目標血糖値)÷インスリン効果値

例えば、現在の血糖値が250mg/dlで目標血糖値が100mg/dl、インスリン効果値が50md/dl/単位の場合、
補正インスリン(単位)=(250-100)÷50=3
となります。

②これから摂る食事に必要なインスリン量
食事に必要なインスリン量は、インスリン/カーボ比または糖質/インスリン比を用いて計算します。

インスリン/カーボ比

1カーボあたりに何単位のインスリンが必要を示す値です。1日の総インスリン量から推定することができます。

50ルール

インスリン/カーボ比=1日の総インスリン量÷50

例えば、
アピドラ(超速効型インスリン) 朝5単位、昼5単位、夕5単位
インスリングラルギンリリー(持効型溶解インスリン) 夕10単位
なら、1日の総インスリン量は25単位
インスリン/カーボ比=25÷50=0.5
であり、1カーボあたり必要なインスリンは0.5単位ということになります。

また、インスリン/カーボ比のより簡単な目安として、

1日の総インスリン量が30単以上なら11日の総インスリン量が30単位未満なら0.5

とする方法もあります。

糖質/インスリン比

糖質/インスリン比は超速効型インスリン1単位で処理できる糖質量を表します。これも1日の総インスリン量から推定することができます。

500ルール

糖質/インスリン比(g/単位)=500÷1日の総インスリン量

例えば、
ノボラピッド(超速効型インスリン) 朝10単位、昼10単位、夕10単位
ランタスXR(持効型溶解インスリン) 朝20単位
なら、1日の総インスリン量は50単位
糖質/インスリン比=500÷50=10
であり、超速効型インスリン1単位で10gの糖質を処理できるということになります。

また、糖質/インスリン比のより簡便な目安として

1日の総インスリン量が30単以上なら10g/単位

1日の総インスリン量が30単位未満なら15~20g/単位

とする方法もあります。

インスリン/カーボ比と糖質/インスリン比は逆数の関係にあり、実際は自分が使いやすい方で計算しましょう。

例えば、糖質10g(1カーボ)の処理にインスリン1単位が必要な場合インスリン/カーボ比は1糖質/インスリンは10

のようになります。

食事のカーボを上手に見積もるには

糖質が多く含まれている食品は、主食(穀物)、芋類、炭水化物が多い野菜、果物、豆(大豆を除く)、牛乳と乳製品(チーズを除く)、甘味料(砂糖、蜂蜜など)、菓子類、アルコール類、嗜好飲料などです。

この中で最も影響する主食のカーボを把握することが重要となります。

主食重量と糖質量の予測

(糖尿病53:391-395,2010より引用)

麺類では太いものほどカーボ量は少なくなり、細いほど多くなる傾向があります。例えば、同じ200gでも饂飩より蕎麦や素麺のほうがカーボ量は多くなります。

また、牛乳は200mlで1カーボが目安です。そのほか果物など、よく食べる食品に含まれている糖質量は確認しておくとよいでしょう。肉・魚・卵や油は炭水化物を含まないため0カーボとなります。(調理法次第で、煮つけは調味料で0.5~1カーボ、フライや揚げ物では衣で1~2カーボ程度となります。)

カーボカウントの注意点

カーボカウントでは糖質量のみカウントしますが、蛋白質・脂質の摂取量・種類、塩分量などは別途注意していきましょう。

基礎カーボカウントでも応用カーボカウントでも、実際にその値で血糖コントロールが上手くいっているか振り返ることが重要です。実際には、糖質以外にも、タンパク質や脂質により緩やかに血糖値が上昇することがあります(特に1型糖尿病において)。また、同じ糖質でも、ブドウ糖・麦芽糖・デンプンに比べて、ショ糖・乳糖の食後血糖上昇は軽度です。運動や併用薬も食後血糖値に関連します。

その他、血糖コントロールが改善しない原因は以下のようなものがあげられます。

血糖コントロールが改善しない場合の原因と理由

(カーボカウント指導テキストより引用)

特に1型糖尿病では、午前午後といった時間帯・季節・月経周期・体調などでインスリンの効きやすさが変わるため、細かな調整が必要となることがあります。一般的に、午前中、気温の低い日、月経前、風邪などストレス時はインスリンが効きにくくなります。

グリセミックインデックス・グリセミックロード

同じ糖質量でも、食後の血糖値の上昇度合いが異なることがあります。この糖質の質を表す値が、グリセミックインデックス(GI)やグリセミックロード(GL)です。

GIは、糖質50gを含む食品と、糖質50gを含む基準食(GI=100、白米なら150g)を食べた後の血糖値の上昇度合いを比較したものです。

GI

一般的に、低GI:55以下、中GI :56-69、高GI :70以上で分類されます。

一方、GLは糖質の量と質の両方を評価した値です。GIに一食分の糖質量をかけた値となります。GIが高い食品でも、一食の糖質量が少なければGLは低値、GLが低くても、一食の糖質量が多ければGLは高値となります。

カーボカウントを実践するうえで、糖質量だけでは補えない血糖コントロールを理解するため、GI・GLを考慮するとよいでしょう。

アルコール摂取時のカーボカウント

アルコールは1g=約7kcalですが、酒の種類により含有する糖質量は変わります。ウイスキー、ブランデー、ジン、ウォッカは糖質が少なく、リキュール類、梅酒は多い傾向にあります。ご自分がよくお飲みになる商品の糖質量を把握しておいてください。

食事と同様に摂取量に依存して血糖値は上昇します。おつまみによる血糖値上昇もあります。

一方で、肝臓での糖新生(アミノ酸や脂質からブドウ糖を新たに作ること)を抑制して低血糖の誘因となります(Am J Physiol 275:E897-907,1998)。特に晩酌後の夜間就寝中から翌朝にかけての低血糖は要注意です。

アルコール摂取時のインスリン量の調整は、低血糖回避を第一に考えていきましょう。