内分泌内科

妊娠・授乳期のレボチロキシン(チラーヂン)内服ガイド|用量調整・飲み方・相互作用

🔊 このページの要点

妊娠・授乳期のレボチロキシン(チラーヂン)は原則継続可能です。妊娠判明時に一時的な増量が必要となることがあり、TSHを確認しながら4〜6週ごとに用量を調整します。鉄・カルシウムなど吸収を妨げる成分は内服時間をずらしましょう。

🤖 AIによるこのページの要約

  • 妊娠判明時はTSHを確認しつつ、必要に応じてレボチロキシンを増量。
  • 採血は原則4〜6週ごと。目標TSHは妊娠期に合わせて設定します(詳細は別ページ)。
  • 服用は空腹時(朝食前30〜60分)または就寝前(最終食後3〜4時間)。
  • 鉄・カルシウム・マグネシウム・制酸剤・胆汁酸吸着薬などとは原則4時間以上あける。
  • 産後は多くの方が妊娠前用量へ戻し、6〜8週でTSH再評価。授乳中も原則使用可。

妊娠・授乳期のレボチロキシン(チラーヂン)内服を想起させる抽象イラスト(青基調)|しもやま内科
妊娠・授乳期も「正しく継続・正しく調整」

妊娠中・授乳中にレボチロキシン(チラーヂン)を安全に継続し、適切に用量調整するための実務ガイドです。橋本病・甲状腺全摘後・RAI後など背景は様々ですが、妊娠期は甲状腺ホルモン需要が変化するため、定期的な採血と内服タイミングの工夫がとても大切です。


なぜ妊娠で用量調整が必要になるの?

妊娠により甲状腺ホルモン需要が増え、従来量のままだと相対的に不足(TSH上昇)しやすくなります。胎児の発達・妊娠経過のためにも、妊娠期に適したTSH目標を保つことが推奨されます(目標値は個別に設定)。

▼ 妊娠期のTSH目標と採血間隔の考え方は、こちらもご参照ください:
妊娠中のTSH目標とフォロー間隔

妊娠がわかったら(初期対応)

  • 自己判断で中止しない(継続が原則)。
  • 速やかに受診・採血:TSH/FT4を確認し、必要に応じて用量を調整。
  • 橋本病だけでなく、術後・RAI後の甲状腺機能低下症も同様に慎重な調整が必要です。

採血とフォロー(目安)

  • 4〜6週ごとにTSH(必要に応じてFT4)をチェック。
  • 用量変更後は、やや早めの再評価で過不足を素早く補正。
  • 妊娠後期〜分娩直前の安定化も確認。

飲み方のコツ(吸収を安定させる)

  • 空腹時:朝食前30〜60分が基本。朝が難しければ就寝前(最終食後3〜4時間)も選択肢。
  • つわりで朝内服がつらい場合は、就寝前へ切り替えて吸収を安定させます。
  • 採血当日も、通常どおりの時間に服用して構いません(医師の指示があればそれに従ってください)。

相互作用の多い成分と内服間隔

次の成分はレボチロキシンの吸収を低下させることがあります。原則4時間以上あけるのが安全です。

成分・薬剤 ポイント
鉄剤、マルチビタミン キレート形成で吸収↓。4時間以上あける。
カルシウム・マグネシウム カルシウム製剤、Mg製剤、乳製品多量 吸着・結合で吸収↓。4時間以上あける。
制酸剤・スクラルファート アルミニウム/マグネシウム含有、スクラルファート 吸着で吸収↓。4時間以上あける。
胆汁酸吸着薬 コレセベラム等 吸着で吸収↓。多くの製剤で4時間以上あける。
コーヒー・大豆食品 濃いコーヒー、豆乳・大豆食品 吸収に影響の可能性。時間をずらすか就寝前服用に。

※ 個々の薬剤で推奨間隔が異なる場合があります。処方時に必ずご相談ください。

よくある困りごと(トラブルシューティング)

  • 飲み忘れた:気づいた時点で1回分を内服。重ね飲みはしない。連日の飲み忘れは受診で相談。
  • つわりで吐いてしまう:就寝前へ切り替える/内服タイミングを医師と調整。
  • 便秘薬・鉄剤が必要:内服間隔を十分あける。可能なら別時間帯に。

背景別の留意点

  • 橋本病:妊娠に伴う需要増で増量が必要になることあり。橋本病と妊娠:総論
  • 甲状腺全摘・RAI後:内因性分泌がないため、より厳密なモニタリングが必要。
  • 体外受精・多胎:需要変化が大きくなりうるため、早めの再評価を。

産後の対応・授乳

  • 多くの方が妊娠前の用量へ戻すのが目安。6〜8週でTSH再評価。
  • 授乳中も原則継続可能です。乳汁分泌が整うためにも適正量を維持しましょう。
  • 産後の甲状腺機能変動(産後甲状腺炎)にも注意:産後甲状腺炎

受診の目安

  • 妊娠判明/流産・早産歴がある/甲状腺手術歴やRAI治療歴がある
  • 動悸・だるさ・むくみ・体重変化など甲状腺関連症状が気になる
  • 鉄剤・Ca製剤・制酸剤など併用薬が増えた/飲み方の調整が必要

関連記事

この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)/しもやま内科 院長(船橋市)

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
  • 日本甲状腺学会 専門医
  • 日本循環器学会 専門医
  • 日本老年医学会 老年科専門医・指導医

妊娠期・授乳期の甲状腺管理についても、実務に即して診療しています。内服や採血のタイミングでお困りの際はご相談ください。

参考文献

2017 American Thyroid Association Guidelines for Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum(妊娠期の管理・TSH評価)
Liebert Publishing

ACOG Practice Bulletin: Thyroid Disease in Pregnancy(妊娠中のモニタリングと用量調整の考え方)
アメリカ産科婦人科医会

LactMed: Levothyroxine(授乳期の安全性)

NHS medicines: Levothyroxine(妊娠中の継続と定期血液検査の必要性)
nhs.uk

Mayo Clinic & StatPearls(鉄・カルシウムなどとの内服間隔の目安)
Mayo Clinic

-内分泌内科