甲状腺内科

甲状腺良性腫瘍に対するTSH抑制療法

甲状腺良性腫瘍に対するTSH抑制療法

甲状腺良性腫瘍(結節性甲状腺腫、甲状腺腺腫、甲状腺の嚢胞など)に対するTSH抑制療法(レボチロキシン[L-T4]の投与による甲状腺刺激ホルモン[TSH]の抑制)に関するエビデンスを説明します。

TSH抑制療法の理論的背景

TSHは甲状腺細胞の増殖を促進するため、TSHを抑制することで甲状腺良性腫瘍の増大を防ぐ、あるいは縮小させる可能性があると考えられています。そのため、L-T4を投与してTSHを低値に維持する治療法が検討されてきました。

主要なエビデンス

(1) 無作為化比較試験(RCT)の結果

Meta-analysis (2001, 2017)

- 2001年のmeta-analysis(Biondi & Cooper, Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)では、TSH抑制療法による甲状腺結節の縮小効果は約20~30%の症例で認められた。
- 2017年のシステマティックレビュー(Fiore et al., Clinical Endocrinology)では、結節の縮小率は約17%と報告されており、一部の患者には有効であるが、すべての患者に適応されるわけではないとされた。

NEJM Study (1998)

- *New England Journal of Medicine*(1998年)に掲載されたRCTでは、TSH抑制療法は単発性の結節よりも多結節性甲状腺腫では有効性が低いことが示唆された。

(2) 長期観察研究の結果

- 10年以上の観察を行った研究(Grozinsky-Glasberg et al., 2012)では、L-T4によるTSH抑制療法は結節の縮小効果が限定的であり、高齢者や心血管リスクのある患者には推奨されないと報告された。

TSH抑制療法のリスク

(1) 骨代謝への影響

- 長期のTSH抑制療法は、骨粗鬆症のリスクを増加**させる可能性がある(特に閉経後女性)。
- 2015年のCohort Study(Heemstra et al.)では、TSH抑制療法を受けた患者で骨折リスクが有意に上昇していた。

(2) 心血管系への影響

- 心房細動のリスクが上昇することが報告されている。
- 2010年のメタアナリシスでは、TSHを過度に抑制すると心房細動のリスクが約2倍に増加することが示唆された。

現在の推奨ガイドライン

(1) American Thyroid Association (ATA) 2015

- TSH抑制療法は一般的に推奨されない。
- ただし、結節の増大が著しく、他に治療手段がない場合には慎重に実施を検討。

(2) European Thyroid Association (ETA) 2016

- 若年者で心血管リスクや骨粗鬆症のリスクが低い場合に限定的に考慮される。

まとめ

✅ TSH抑制療法は一部の患者で甲状腺結節の縮小効果があるが、効果は限定的。
✅ 骨粗鬆症や心血管疾患のリスクがあるため、高リスク患者には推奨されない。
✅ 現在のガイドラインでは一般的に推奨されず、慎重な適応が求められる。

結論

エビデンスを総合すると、TSH抑制療法は以前は有望視されていたものの、そのリスクのために現在では一般的な治療法としては推奨されない傾向にあります。特に高齢者や心血管疾患リスクのある患者には適応が難しく、代替治療(定期的な経過観察、外科手術、エタノール注入療法など)が検討されます。

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