出産後に発症する無痛性甲状腺炎を産後甲状腺炎といい、出産後7~8%程度の頻度で生じるとされます。
無痛性甲状腺炎がよくみられるのは、産後の2か月~4か月間です。動悸、息切れ、振戦が出て、バセドウ病と間違われてしまうことがあります。
無痛性甲状腺炎で甲状腺ホルモンが過剰になるのは、甲状腺に蓄えてあった甲状腺からホルモンが漏れ出るためで、バセドウ病のようにホルモンの産生が盛んになることが原因ではないため、長くは続かず、遅くとも3か月以内には治まります(下図の③)。
メルカゾールなどの抗甲状腺薬は使用しません。甲状腺機能亢進症による頻脈などの症状が強い場合には、授乳中でも内服可能なプロプラノロールなどを投与することがあります。
その後、一時的に甲状腺機能低下症になるものの、1年以内には回復するケースもありますし(下図の④)、永続的に甲状腺機能低下症になってしまう場合もあります(下図の⑤)。長期的には、25~30%の頻度で、永続性甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモン薬(チラージンS®️)の内服を要するという報告もあります。
産後甲状腺炎を認めた場合は、数か月間経過をみて、経過に応じた対応をしていきます。
① 永続性甲状腺中毒症
② 一過性甲状腺中毒症
③ 破壊性甲状腺中毒症
④ 一過性甲状腺機能低下症
⑤ 永続性甲状腺機能低下症