放射性ヨウ素(RAI)治療は、甲状腺がんの術後アブレーション/再発抑制や、バセドウ病(Graves病)の根治治療の選択肢です。
実施前は低ヨウ素食と内服調整が重要。入院中は決められた安全基準に従い、退院後も一定期間の生活上の配慮が必要です。授乳は中止、妊娠は一定期間避けます。

放射性ヨウ素(RAI:Radioactive Iodine、ヨード内用療法)は、甲状腺がんの術後アブレーション/残存抑制、再発病変の治療、およびバセドウ病(Graves病)の根治治療に用いられます。ヨウ素は甲状腺に取り込まれる性質があり、放射性ヨウ素(I-131)を内服すると、標的となる甲状腺組織を選択的に治療できます。
当院では適応の判定・事前準備・関連診療科との連携を行い、連携病院でのRAI実施をスムーズにサポートします。
1. 適応
- 甲状腺がん関連:分化型甲状腺がん(乳頭癌・濾胞癌)の術後アブレーション、持続/再発病変の治療、遠隔転移のコントロールなど。適応は腫瘍リスク分類・病理・術後サイログロブリン(Tg)・画像所見で総合判断します。
参考:甲状腺がんの種類 / 甲状腺がん術後フォローアップ - バセドウ病(Graves病):抗甲状腺薬で副作用/コントロール不良・再燃を繰り返す場合、妊娠計画や生活背景を考慮して選択。眼症の程度や甲状腺腫の大きさも検討材料です。
関連:バセドウ病(Graves病)
2. 準備(低ヨウ素食・内服調整・検査)
低ヨウ素食(目安 1〜2週間)
体内のヨウ素を減らし、放射性ヨウ素の取り込みを高めるために低ヨウ素食を行います。
控える:海藻(昆布・わかめ・ひじき・海苔)、海藻由来加工品(だし、佃煮)、ヨウ素含有サプリ、ヨードうがい薬、ヨード造影剤既往は事前申告。
使える:米・小麦・いも類、肉・卵、野菜・果物、乳製品は病院指示に従い少量可否が異なります。加工食品は成分表示を確認。
内服薬の調整
- バセドウ病の抗甲状腺薬:治療前に一時中止が必要となる場合があります(薬剤・病状により中止期間が異なるため、必ず指示に従ってください)。
- レボチロキシン(術後の甲状腺ホルモン):がんのアブレーションでは、ホルモン休薬またはrhTSH(チロトロピンアルファ)補充のいずれかでTSHを上げてから実施します。
- ヨウ素を含む薬/うがい薬/サプリ:事前に申告し、指示に従って中止/代替。
実施前の検査・調整
- 採血(TSH, FT4/FT3, Tg/抗Tg抗体 ほか)、必要に応じて妊娠反応、腎機能
- 画像(頸部エコー、必要時シンチ、CT等)
- がん術後例では、病期/リスク評価・TSH目標の共有
3. 入院中の流れ
- 入院・説明:治療目的・手順・安全対策の最終確認。
- 放射性ヨウ素内服(I-131):通常はカプセルで内服。以降は所定の病室で過ごします。
- 安全管理:医療スタッフの指示に従い、病室内での行動・排泄物の取り扱い・洗面/入浴などのルールを遵守します。
- 放射線量の確認:退院の目安は病院の基準に基づき、測定値で判断されます。
4. 退院後の注意(一定期間の生活配慮)
退院後も、小児や妊婦への長時間の至近距離接触を控える、寝室を分ける、タオルや食器を分けて使用、トイレ後の十分な洗浄など、病院で指示された期間は配慮を継続してください。公共交通機関や外出の目安、仕事復帰の可否も個別の投与量と施設基準で異なります。必ず退院時の説明書に従ってください。
5. 授乳・妊娠に関する留意点
- 授乳:RAI実施前に完全中止が必要です(再開不可)。乳汁うっ滞の対策を事前に相談します。
- 妊娠:一定期間の避妊が必要です(一般には数か月〜1年の範囲で個別指示)。バセドウ病治療後の妊娠計画は、甲状腺機能が安定してから主治医と調整します。
- 家族計画:配偶者への影響を含め、適切な時期に再評価(採血・画像)を行います。
よくあるご質問
RAIは何回くらい必要ですか?
低ヨウ素食はどの程度厳密に行うべきですか?
退院後、子どもと一緒に過ごしても大丈夫?
本ページは一般的な解説です。施設の実施基準・投与量・個別状況により指示は異なります。最終的な判断と具体的な行動は、連携病院の説明・書面に従ってください。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長/日本甲状腺学会 甲状腺専門医 ほか