【要点まとめ】
- 細菌感染による急性炎症で、高熱と前頸部の激しい痛み・発赤・腫脹が典型です。
- 膿瘍形成の有無を甲状腺エコーで確認し、必要に応じ切開排膿+抗菌薬を行います。
- 鑑別は亜急性甲状腺炎(痛みはあるがウイルス関連で化膿しない)等。採血(WBC/CRP)、画像で見分けます。
- 妊娠・授乳中は安全域の抗菌薬選択が重要。自己判断での鎮痛薬・抗菌薬の中断は避けましょう。

急性化膿性甲状腺炎(acute suppurative thyroiditis)は、主に細菌感染が原因のまれな甲状腺炎です。高熱と前頸部の限局痛、発赤・腫脹が典型で、嚥下痛や頸部の拍動痛を伴うこともあります。甲状腺機能異常は軽度〜正常にとどまることが多い一方、膿瘍形成時は迅速な処置が必要です。
主な症状・所見
- 発熱、寒気、全身倦怠感
- 前頸部の強い限局痛(圧痛・発赤・腫脹)
- 嚥下痛、頸部リンパ節腫脹
- 採血:白血球増多・CRP高値、甲状腺ホルモンは正常〜軽度変動
リスク因子・原因菌の一例
- 咽頭・扁桃感染の波及、梨状窩瘻(小児〜若年で注意)、穿刺後感染、免疫低下
- 起因菌:連鎖球菌・ブドウ球菌などの好気性グラム陽性菌が中心(症例により混合感染)
診断の進め方(当院の方針)
- 採血:WBC、CRP、血液培養(発熱時)、TSH/FT4/FT3
- 甲状腺エコー:低エコー域、膿瘍/液体貯留の評価、ドプラ血流(周囲高信号)
▶ エコーの詳細:甲状腺エコー検査 - CT/MRI:深頸部への波及や気道圧排が疑われる場合に検討
- 穿刺吸引(必要時):膿の採取・培養で起因菌同定、排膿を兼ねる
鑑別診断(間違えやすい例)
- 亜急性甲状腺炎:痛みはあるが化膿はしない。炎症高値・甲状腺中毒相を伴いやすい。
→ 詳細:亜急性甲状腺炎 - 無痛性(サイレント)甲状腺炎:痛みが乏しい。自己免疫背景。
- 甲状腺結節出血、頸部リンパ節炎、深頸部膿瘍 など
治療:抗菌薬 ± 排膿(外科処置)
- 抗菌薬:第一選択はグラム陽性球菌をカバー。培養結果に合わせてデエスカレーションします。
- 切開・排膿:エコーで膿瘍形成を認める、または気道圧排・疼痛強い場合は速やかに実施(連携医療機関と協力)。
- 鎮痛:アセトアミノフェン中心。NSAIDsは腎機能・胃腸障害に注意。
- 甲状腺ホルモン薬:多くは不要。機能低下が遷延する場合のみ補充を検討。
妊娠・授乳中の注意
- 抗菌薬の選択は週数・背景を考慮(β-ラクタム系など安全域の高い選択肢を中心に個別判断)。
- 鎮痛はアセトアミノフェンを基本に。自己判断の中止・切替は避ける。
- 授乳可否や薬剤の体内移行については院内ガイドをご参照ください:
▶ 授乳期に使える甲状腺薬の安全性
経過・合併症とフォロー
- 適切な治療で数日〜数週で改善。合併症として深頸部膿瘍・縦隔炎・敗血症などに注意。
- 再発や瘻孔(梨状窩瘻)疑いでは耳鼻科・外科と連携し根治術を含め検討。
- 再診時は症状・採血(WBC/CRP)・エコーで効果判定、抗菌薬の期間調整を行います。
至急受診の目安:急速な頸部腫脹、呼吸しづらい/声がかすれる、高熱・悪寒が続く、嚥下困難の悪化。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長/総合内科専門医・糖尿病専門医・循環器専門医・甲状腺専門医
下山 立志(しもやま たつし)
甲状腺エコーと培養結果を活かし、連携医療機関と協力して安全・迅速な治療をご提供します。