嘔吐症

26/09/2017

嘔吐症の原理

嘔吐は何らかの原因により嘔吐中枢が刺激されると迷走神経,交感神経,体性運動神経を介して起こる。幽門が閉ざされ,食道括約筋がゆるみ,胃に逆流運動が起こり,それとともに横隔膜や腹筋が収縮して胃を圧迫し,胃の内容物が排出される。

唾液分泌亢進,冷汗,顔面蒼白,めまい,徐脈,頻脈,血圧低下などの自律神経症状を伴うことがある。胆気は同様な刺激により起こり,嘔吐運動に至らないものと考えられるが,胆気を伴わない嘔吐もあり不明な点も多い。

嘔吐中枢は局在性のはっきりしたものではなく,一連の嘔吐運動を引き起こす疑核,唾液核などを介し嘔吐運動を起こし,また上位中枢へ伝えられ胆気として認識される。この部位は血液脳関門に覆われているので,直接催吐性の物質には反応しないが,神経を介した入力を受ける。神経伝達に関与する受容体としてはドパミンD2受容体,ムスカリン(Achm)受容体,ヒスタミンH1受容体,セロトニン5HT2,3受容体,ニューロキニンNK1受容体などがある。いわゆる嘔吐中枢への入力には4つの経路があると考えられている。

精神的あるいは感情的な要因によっても嘔吐は起こる。化学療法における予期匪嘔吐はよく知られているが,どのような経路で嘔吐中枢に至るのかは明らかにされていない。頭蓋内圧亢進や腫瘍,血管病変などが直接または間接的に嘔吐中枢を刺激する。脳圧が高くなくても脳室の拡大,伸展があると機械的受容体が刺激され,嘔吐中枢への入力となる。 最後野(area postrema)は第4脳室底にあり,血管が豊富で血液脳関門がないので,血液や脳脊髄液中の代謝物,ホルモン,薬物,細菌の毒素など,さまざまな催吐性刺激を受けるため化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone ; CTZ)と呼ばれる。神経伝達物質ではドパミン,セロトニン,サブスタンスPなどが,薬物ではモルヒネ,ジギタリスなどが刺激となることがよく知られている。一方,最後野へは神経性の入力もある。消化管から5HT3受容体が関与する迷走神経による刺激や,前庭からの刺激がこの部を介して嘔吐中枢に伝えられる。

体の回転運動や前庭の病変により前庭が刺激されると, Achm受容体やH1受容体の関与するコリン作動性ニューロン,ヒスタミン作動性ニューロンにより,直接または最後野を介して嘔吐中枢が刺激される。

咽頭,心臓,肝臓,消化管,腹膜,腹部・骨盤臓器の機械的受容体あるいは肝,消化管の化学受容体が刺激されると迷走神経,交感神経,舌咽神経を介し,嘔吐中枢が刺激される。消化管の伸展は嘔吐刺激となりうる。ドパミン刺激により消化管の運動は低下し,内容物が停滞することで,消化管の伸展を引き起し,機械的受容体が刺激され,迷走神経,内臓神経を介して嘔吐刺激が伝えられる。ここにおいて,D2受容体拮抗作用や5HT4受容体刺激はアセチルコリンを放出させ,消化管運動が改善することで消化管の伸展は緩和され,嘔吐刺激は改善する。消化管閉塞があると,消化管運動により消化管は過伸展を引き起し,嘔吐刺激が惹起される。また消化液の分泌増加が加わると,消化管がさらに伸展し,嘔吐刺激は悪化すると考えられる。化学療法などで消化管の粘膜障害が起こると,セロトニンが腸管クロム親和性細胞より放出され,求心性の迷走神経,内臓神経を介して刺激が嘔吐中枢に伝えられる。

参考文献

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