産後甲状腺炎 × 産後うつの鑑別(EPDS高値時の視点)

産後甲状腺炎 × 産後うつの鑑別:EPDS高値時は甲状腺機能も必ず確認

産後6か月以内の不安感・動悸・倦怠感は、産後うつだけでなく甲状腺機能異常でも起こります。EPDS高値ではTSHとFT4を優先測定し、授乳に配慮した治療選択を行います。

🔎 要点まとめ

  • スクリーニング:産後6か月以内の情動症状・動悸・強い疲労ではEPDSに加えTSH・FT4(±FT3)を優先。
  • 鑑別の鍵:産後甲状腺炎(PPT)は「一過性の甲状腺中毒期→低下期」の二相性や経過で見極め。微熱・授乳負担による疲労との混在に注意。
  • 授乳と治療:低下期はレボチロキシン(LT4)が授乳中でも安全。中毒期は多くが破壊性であり抗甲状腺薬は原則不要、症状対策にβ遮断薬を少量。
  • 紹介の目安:甲状腺眼症様所見、持続増悪、重度うつ・自傷念慮、心拍持続高値や授乳困難、再燃を繰り返す場合は専門医へ早期紹介。

産後の不安感・涙もろさ・集中困難・強い倦怠感は、産後うつとともに甲状腺機能異常でも起こり得ます。特に産後6か月以内は、EPDSで高値の際にTSH・FT4を同時に確認することで見落としを減らせます。ここでは、産後甲状腺炎(PPT)と産後うつの鑑別、授乳中の薬物療法の実際を整理します。

EPDS高値のスクリーニングとTSH/FT4同時評価で産後甲状腺炎と産後うつを鑑別する青基調インフォグラフィック(母子シルエット・甲状腺・6か月軸入り)
産後甲状腺炎 × 産後うつの鑑別:EPDS × TSH/FT4(6か月以内の評価)

産後6か月以内のスクリーニング

  • 優先検査:TSH、FT4(必要に応じFT3)。PPT疑いでは抗TPO抗体が参考(陽性で再発リスク高)。
  • EPDSの併用:EPDS≧13前後は産後うつの可能性が高く要評価。甲状腺異常が併存しうるため同時採血が効率的。
  • PPTの典型経過:出産後数週〜3か月に中毒期(動悸・不安・体重減少)→その後低下期(抑うつ・易疲労・体重増加)へ移行し多くは自然軽快。
  • Graves病の再燃/新規発症にも注意:TRAb陽性、びまん性血流増加、眼症状などがヒント。

情動症状・倦怠感の区別ポイント

  • 中毒期が示唆される所見:安静時頻脈、手指振戦、暑がり、甲状腺血流増加に乏しい破壊性パターン、CRP軽度上昇のみ
  • 低下期が示唆される所見:むくみ、寒がり、便秘、徐脈傾向、コレステロール上昇、抑うつ・思考遅延。
  • 産後うつに比べた特徴:気分変動がホルモン変化と同期し、TSHの明確な逸脱を伴う。治療により比較的速やかに気分・活動性が改善することが多い。

授乳中の薬物療法(実務ポイント)

  • 中毒期(破壊性):原則抗甲状腺薬は不要。動悸・振戦にはプロプラノロール少量を短期使用(授乳同時でも概ね安全)。
  • Graves病が疑われる/確定:授乳中はメチマゾール(MMI)低〜中用量またはPTUが選択肢(授乳直後投与・分割最少化)。放射性ヨードは授乳中禁忌
  • 低下期:レボチロキシン(LT4)は授乳中でも安全。疲労・抑うつが強い場合はTSH目標を設定し数週で再評価。
  • 精神症状:重度は精神科連携を前提に、授乳と整合する向精神薬の選択を検討。

紹介のタイミング(当院へのご相談目安)

  • EPDS高値にTSH異常が併存、または心拍持続高値・体重急減/急増・授乳困難。
  • Graves病疑い(TRAb陽性、びまん性血流増加、眼症状)。
  • 再燃を繰り返す、甲状腺腫大著明、診断に難渋。
  • 重度の抑うつ・自傷念慮など精神科の緊急介入が必要な場合(同時に内分泌評価)。

よくあるご質問(FAQ)

産後の不安・動悸がある時、どの検査を優先?
EPDSに加え、まずTSH・FT4(±FT3)を優先します。必要に応じて抗TPO抗体、Graves病が疑わしい場合はTRAb、心拍持続高値なら心電図も確認します。
授乳中のLT4・抗甲状腺薬の可否は?
LT4は授乳中でも安全です。産後甲状腺炎の中毒期は破壊性であり抗甲状腺薬は原則不要です。Graves病の場合はMMI/PTUを少量で用い、授乳直後の投与・最少分割を推奨します。放射性ヨードは禁忌です。
どのタイミングで紹介すべき?
EPDS高値に甲状腺機能異常が併存、重度の不安・抑うつ、自傷念慮、心拍持続高値、授乳困難、Graves病疑い、再燃や診断不確定などは早期に専門医へ紹介してください。

しもやま内科(船橋市)
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👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年病専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医

糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。