脂質異常症治療薬 スタチン
血清コレステロール値,とくにLDLコレステロール (LDL-C)値が虚血性心疾患発症の独立した危険因子であることは,多くの疫学的・実験的研究により明らかにされている.過去の数多くの大規模臨床試験によりスタチンによるLDL-Cの低下が動脈硬化予防に有効であるエビデンスが集積してきた.今日では虚血性心疾患のリスク管理においてスタチンによるLDL-C低下療法がその中心的役割を担っているといえる.
脂質異常症におけるスタチンの適応
スタチンは家族性高コレステロール血症を含む全てのⅡa型高脂血症に対して第一選択として用いる薬剤である.Ⅱb型高脂血症に対しても有用であるが,コレステロールの増加に対してトリグリセライド (TG) の増加の方が優位な症例にはフィブラート系薬剤を第一選択とし,コレステロールの増加がTGの増加よりも優位な場合にスタチンを用いるようにする.Ⅲ型高脂血症に対しても適応があるが,Ⅳ型,Ⅴ型高脂血症に対しては用いるべきではない.
スタチンの薬理作用
スタチンには,その基本的作用であるLDLコレステロール (LDL-C)の低下に加え,TGを下げる働きもあり,またHDLコレステロール (HDL-C)についても上昇させる場合が多い.本薬剤は,内因性コレステロール合成の律速酵素である3-ヒドロキシ 3-メチルグルタリル コエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素を阻害し,細胞内コレステロール合成を減少させる.その結果,細胞膜上のLDLレセプター発現が増加し,LDLの異化が亢進する.TGに対するスタチンの効果は,治療前のTG値とスタチンによるLDL低下作用の強さの双方に比例する.治療前のTG値が150㎎/dl以下の場合,スタチンの効果はほとんど見られないが,150-250㎎/dlの範囲にある時には中等度の低下作用を,TG値が250㎎/dl以上の場合には濃度依存性により大きな低下作用を示す.HDL-Cについては,TGの低下と反比例して増加をもたらす場合が多いが,その効果は薬剤によっても異なる.
スタチンの臨床的効果
スタチンによる心血管イベント抑制効果は,単にLDL-C値の低下によってもたらされる動脈硬化抑制効果を上回ると言われている.例えば,いくつかの大規模臨床試験で示された脳卒中の抑制効果や投与開始後1ヶ月程度で虚血イベントの予防効果を認める点などは,LDLに対する作用だけでは説明しにくいため,スタチンには“多面的効果pleiotrophic effect”があると考えられるに至った.すなわち,脂質成分に富む粥状動脈硬化プラークの安定化,血管内皮機能の改善,易血栓性の減少,細胞増殖抑制,抗炎症,抗酸化などが,基礎・臨床研究の両面から報告されている.とはいえ,冠動脈イベントの抑制にLDL-C値の低下が最も寄与することは,数々のエビデンスからも疑いなく,臨床的には適切なLDL-C値の管理を指標としてスタチンを使用すべきである.スタチンの副作用として主なものは,消化器症状や発疹,筋肉痛などであり,検査値異常としては,クレアチンキナーゼ(CK),トランスアミナーゼなどの上昇を認める.他の脂質低下薬に比べて頻度が高いものではないが,最初の1年間については,少なくとも3ヶ月に一度の肝機能検査を実施すべきである.重篤な副作用としては横紋筋融解症があり,腎障害,閉塞性黄疸,アルコール多飲,高齢,甲状腺機能低下などがその発症リスクを高める要因とされる.スタチンの投与開始後は,筋肉痛などの症状の出現に注意し,適宜CK値をモニターする.肝機能障害や筋障害などの副作用を生じた場合,その原因となったスタチンを中止することはいうまでもない.スタチンは,その種類によって最大用量におけるLDL低下作用の強さに違いがあるため,患者の治療前LDL-C値に応じて,管理目標値を達成できる適切な薬剤を選択すべきである.