糖尿病内科

糖尿病性単神経障害 顔面神経麻痺

26/10/2017

糖尿病性単神経障害 顔面神経麻痺

60歳代女性。生来健康で、健康診断などは受けていなかった。40代の頃、感冒で近医を受診した際に高血糖を指摘されたが放置していた。50歳時から体重減少を認め、3年で10㎏減少していた。53歳時登山中に両足が痙攣したことを契機に当院受診、糖尿病の診断となり、以後当院に通院している。当初は内服治療、その後内服薬と基礎インスリンの併用療法、最終的には強化インスリン療法で血糖のコントロールを図ってきたが、食事療法の遵守ができないこと、運動療法が十分にできないことからHbA1c9-10%程度で経過した。数回教育入院を行ったが、入院時は改善するものの退院するとまた悪化することの繰り返しであった。XXX日頃から飲み物を飲むと右の口角から飲み物がこぼれる症状、右眼の涙が止まらない症状が出現した。XX日脳神経外科を受診し上下の顔面筋麻痺があるが、四肢の感覚障害なく運動麻痺もないため、右末梢性顔面神経麻痺の診断で耳鼻咽喉科に入院した。
#1.右末梢性顔面神経麻痺
柳原法で(4/0/0/0/0/0/0/0/0/2 6/40)。右眼の閉眼と右の額のしわ寄せ不可、右の口角が垂れ、構音障害を認める。外耳道に発疹はなく、扁桃2度膿栓を認める。
ステロイド療法(60㎎、50mg、40mg、30mg、20mg、10mg、5mg)テーパーを行い、(には柳原法(2/2/2/2/0/0/2/2/2/2 16/40)となる。誘発筋電図で0%。)の柳原法( 4/2/2/0/0/0/0/2/2/2 14/40)で改善した。プレドニゾロンの内服を終了し退院した。
#2.2型糖尿病
糖尿病内科にて、入院前は基礎インスリン(デグルデク)18単位、追加インスリン(グルリジン)2-3-4単位を服用していた。入院時の空腹時血糖値(朝食前)は133mg/dlでコントロールできていたが、眠前の血糖値321 mg/dlと高値であった。から朝食前の基礎インスリン22単位、追加インスリン8-8-10単位で開始し、ステロイドの漸減に合わせてインスリンも減量した。空腹時血糖値が77mg/dlまで低下したため、デグルデク18単位から14単位に減量し、さらにから10単位に減量した。空腹時血糖値130mg/dl以下を保つようにグルリジンも漸減し、眠前の血糖値も100台前半で推移していた。入院前の2-3-4単位を目指したが、4-4-4単位まで減量したところ、眠前の血糖値が200台まで上昇してきたため、6-6-6単位まで増量して退院となった。退院時の空腹時血糖値は102mg/dl、眠前の血糖値は220mg/dlであった。
【総合考察】糖尿病性神経障害の発症率は血糖コントロールが不良であるほど高く、罹病期間が長いほど高くなる1)が、それでも0.97%と稀である2)。糖尿病性神経障害には様々なタイプがあるが、顔面神経麻痺は急性単神経障害のうち動眼神経麻痺、外転神経麻痺につづいて頻度が高い2)。顔面神経麻痺症例の3-11%に糖尿病が合併しているという報告もある3)。糖尿病による顔面神経麻痺の治療の基本はステロイド治療であるが、インスリン抵抗性の増大による血糖コントロール悪化が問題となる。三浦は、インスリン治療を行っている患者に対してはインスリン量の増量、そうでない患者に対しては基礎インスリン・追加インスリンを追加することを奨めている4)。本症例は罹病期間が長くかつコントロール不良が長く続く糖尿病を背景に顔面神経麻痺をきたしたと考えられる。ステロイド治療によって食後高血糖が顕著になり、グルリジンを増量して対応したが、退院後はステロイドOFFになったことから血糖が改善してくると考えられ、外来でこまめにフォローしてインスリンを減量していくことが必要である。

【参考文献】
1)Partanen J, et.al: Natural history of peripheral neuropathy in patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus. N Engl J Med. 1995 Jul 13;333(2):89-94.
2)有村公良,出口尚寿:糖尿病と末梢神経障害.日本内科学会雑誌 98:399-405,2009.
3)岡本幸市:糖尿病に伴う神経障害―脳血管障害 日本内科学会雑誌93:29-53,2004
4)三浦順之介: 糖尿病神経障害としての顔面神経麻痺と治療時の糖尿病の管理について.日本顔面神経学会27:64-66,2007

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