糖尿病と感染症
糖尿病患者さんが感染症にかかりやすいのはなぜか。病原体が体内に侵入するのを防ぐ機構が免疫力です。糖尿病患者さんの免疫力低下の原因となるものには以下の5つが挙げられます。
白血球などの貪食細胞の機能低下
病原体と戦う細胞の代表的なものが白血球です。「好中球」がそのなかでも最重要のものですが、貪食作用によって病原体と戦います。体内にウイルスや最近が侵入すると、それを取り込んで消化し、殺す作用です。高血糖が続くとこの貪食機能が低下します。具体的には血糖値が250mg/dl以上になると急激に低下することが知られています。
免疫担当細胞機能低下
はしかに一度罹った人が二度と罹らないように、一度感染した病原体に対しては体内で抗体が作られ、同じ病原体が再度侵入しようとした際に侵入を阻止する機構があります。ワクチンはこの機構を利用するものですが、この機能も高血糖により低下します。
血行障害
高血糖では脱水状態になりやすく、全身のすみずみまで血流が行き渡りにくくなります。そのため酸素や栄養が十分運ばれなくなり、細胞機能が低下し、感染に対して弱くなります。また、炎症部位に白血球が行きにくくなることも感染を悪化させる一因となります。さらに、抗生物質を投与しても薬が感染部位に到達しにくいために効果が現れにくくなります。
神経障害の存在が感染を招き、悪化させる
尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)などが最も高頻度にみられます。神経傷害は排尿障害・残尿を起こしやすく、膀胱感染慢性化の原因となります。さらに膀胱から尿管に尿が逆流しやすくなり、腎盂腎炎にまで進展しやすくなります。足先の感染も重要です。神経障害があると小さな傷ができやすくなりますが、神経障害は同時に痛みを感じにくくするため、傷に気付きにくくなります。そのため発見が遅れ、気付いた時には感染がかなり拡大してしまっており、足切断を余儀なくされるケースも珍しくありません。
感染のストレスが血糖値をさらに上昇させる
糖尿病に感染症が合併すると炎症性サイトカイン(インスリンの効きを悪くします)が多くなり、また感染のストレス下ではステロイドホルモンなど血糖を上昇させるホルモンが分泌されることにより血糖値が上昇しやすく、脱水が進み、インスリンの効き目が落ちることによって体内が酸性化します。このことが糖尿病の状態をさらに悪化させ、感染症がさらに悪化するという悪循環に陥ってしまいます。
糖尿病で高血糖が続いている患者さんはこのような理由で感染症にかかりやすく、悪化しやすくなっているのです。糖尿病の管理を十分に行うことによって、感染症の合併を防ぐことは可能です。血糖を良い状態に保つように心がけましょう。