糖尿病と血管合併症
2型糖尿病の治療で最も重要なのは血管合併症(大血管障害・細小血管障害)を予防することです。ところで、2型糖尿病の発症には、遺伝因子と環境因子の両者が関与しています。
インスリン分泌不全やインスリン抵抗性によってインスリンの作用不足が生じると、追加インスリン分泌の不足に起因する食後高血糖を生じ、次いで基礎インスリン分泌の不足に起因する空腹時高血糖を生じます。2型糖尿病では、高血糖の持続そのものが、インスリン分泌障害を引き起こし、インスリン抵抗性を増大させる悪循環が引き起こされるのです。
動脈硬化は空腹時血糖値が顕著に上昇することのない、Impaired Glucose Tolerance: IGTの段階からすでに始まっており、DECODE Studyでは糖負荷後2時間血糖値は総死亡、心血管死の予測因子となるがIFGは予測因子にならなかったことが示されています*。
IGTのステージは内臓肥満を背景に、食後高血糖、脂質異常、高血圧、高インスリン血症などの心血管疾患のリスク因子が現れ始める段階でもあります。2型糖尿病の自然経過では、主に内臓脂肪の蓄積に伴い糖尿病発症前からインスリン抵抗性が亢進します。それに見合ったインスリン分泌が保持されている期間では、血糖値は正常に維持されます。しかしながら、加齢や遺伝的素因などを背景に、膵β細胞の量・機能の低下によってインスリン分泌は徐々に低下し、さらにインスリン抵抗性を増大させる過食・運動不足などの環境因子が継続すると、インスリン分泌の相対的欠乏をもたらし、食後血糖や空腹時血糖が上昇し、糖尿病を発症するのです。インスリン分泌において重要な役割を果たすインクレチン効果は、糖尿病発症前から漸減しており、インスリン分泌の相対的欠乏を助長し、糖尿病の発症・進展における一端を担っています。
*The DECODE study group, Lancet 1999; 354: 617