SPRING試験と高血圧治療

01/09/2016

SPRING試験と高血圧治療

NEJMにSPRING試験の結果が発表され、血圧はlower is betterであるとする結果が出た。大規模前向き試験の結果であり、インパクトが大きい。PRINT試験では、120mmHg未満の厳格降圧が140 mmHg未満の通常降圧に比して、複合エンドポイント(非致死的心筋梗塞、心筋梗塞に至らない急性冠症候群、非致死的脳卒中、非致死的急性非代償性心不全、心血管疾患死)と総死亡を抑制した。さらに75歳以上の高齢者のサブ解析でも同様の結果が示されている。したがって、The lower the betterを示唆するものだと考えられる。しかしながら、以下の3点に注意することが必要だ。

血圧測定法:SPRINT試験では通常の大規模試験と異なり、医療関係者のいない部屋の中で十分な安静の後、自動血圧計での測定がなされている。この方法では、診察室での外来血圧より5?10mmHg近く低い数値になると言われている。むしろ、家庭血圧に近いものとイメージすべきだろう。したがって、JSH2014の家庭血圧の降圧目標とそう大きな隔たりはないかもしれない。

対象患者:SPRINT試験では、糖尿病と脳血管障害既往は除外されている(米国FDAが先導した先行試験があるため)。また、起立1分で低血圧をきたす者やNursing homeに入所している者も除外されている。

FDAが先導したためサイアザイド系利尿薬を中心にした処方になっている。また、有効性の多くが、血圧依存性の高い脳血管障害ではなく心不全の抑制によることなど、これまでの知見との相違もみられる。

したがって、SPRINT試験の結果をそのまま我が国の外来診療に持ち込む前に解決すべき問題点があるだろう。日本高血圧学会ではSPRINT試験の結果を検証するための大規模登録試験を計画している。次回以降のガイドライン策定の重要なポイントになるだろう。一般的な降圧目標が達成された場合、めまい・ふらつき・立ちくらみなどの脳虚血症状、腎機能障害・電解質異常、冠動脈狭窄が隠れている患者での心筋虚血症状・心電図異常などに気を配りながらゆっくりと、また季節間の変動にも考慮しながら、それぞれの患者さん毎に、「安全に下げられる範囲で、可能な限り低値を目指す」ことの妥当性が示された。高齢者の心不全予防も大切だ。