誤嚥性肺炎予防にACE阻害薬を使う

20/03/2010

誤嚥性肺炎にACE阻害薬

日常臨床では糖尿病患者の多くが脳血管障害を起こし、嚥下障害により誤嚥性肺炎を起こすのをしばしば目にする。肺炎は日本人の死因の第4位であるが、その94%は65歳以上の高齢者が占めている。そして高齢者の肺炎の70-80%が誤嚥または不顕性誤嚥によって起こると言われている。食事中に食べ物が気管に入ってそのまま肺炎になるケースもあるが、多くの場合は不顕性誤嚥である。

※誤嚥とは経口摂取物、口腔咽頭分泌物、胃食道から逆流が声帯を越えて気道に侵入すること。

※不顕性誤嚥は誤嚥が睡眠中など無意識に起こること。

不顕性感染の感染源は本人の唾液などが多く、食事をしなくても発症するので経口摂取がなければ発生しないというものではないのである。高齢者の誤嚥・不顕性誤嚥の背景の1つには脳血管障害の存在がある。高齢者の肺炎患者では効率に脳血管障害を合併すること、また65歳以上の高齢者の約半数は症状がないものの、MRIで小梗塞が認められる不顕性肺炎を有すると言われている。特に大脳基底核に脳梗塞が起こると、黒質線条体のドパミン合成が低下し、ドパミンによって調節されているサブスタンスPも低下する。サブスタンスPは嚥下反射、咳反射を司っているため嚥下反射、咳反射が低下して不顕性誤嚥が生じ、肺炎が起こると考えられている。

誤嚥性肺炎が疑われた場合は絶飲食とし、誤嚥の危険性のある患者には食事を液状物より半固形物にする、 1回の量は少なくする、 1口に2回の飲みこみをさせる、 食後2時間は座位を保たせるなどの工夫を行う。しかし実際には誤嚥は夜間に多く、先述したように必ずしも摂食と関係しないことがある。高齢者の誤嚥性肺炎は本人も気づかない不顕性誤嚥によるものが大半を占めている。実際、脳卒中とくに大脳基底核障害のある患者の多くに嚥下反射や咳反射の低下があり、夜間の不顕性誤嚥が多いと言われている。

誤嚥性肺炎の予防法として、トウガラシ成分カプサイシンが嚥下反射を改善することから、トウガラシの入ったものを食べる、 口腔内を清潔にする、 ドパミン作動作用を持つパーキンソン病治療薬の投与などが挙げられているが、別の方法としてACE阻害剤がある。

ACE阻害薬にはサブスタンスPの分解を阻害する作用がある。これが有名な「空咳」の原因でもあるのだが、これをうまく利用することで高齢者の誤嚥性肺炎を予防することができるわけである。不顕性誤嚥を繰り返す人には口腔ケアをするくらいしか予防方法が無かったが、ACE阻害剤の投与は有力な予防法となりうる。
ただし、誤嚥性肺炎予防の保険適応を受けたACE阻害薬は無い。あくまで適応外処方であることを念頭に置かねばならない。

タナトリル(イミダプリル)での誤嚥予防効果の報告が多い。イミダプリル投与により、誤嚥性肺炎を3分の1に減らしたとの報告もある**。
*Sekizawa K, et al. : ACE inhibitor and pneumonia. Lancet 1998; 352: 1069