小児の基準範囲と採血の見方|年齢で変わるTSH/FT4

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小児のTSH/FT4は年齢で基準が変わります。生後すぐはTSHが高く、数日〜数週で低下します。採血前の注意(バイオチン中止、急性疾患の影響など)と、使用検査室の基準範囲・測定法を必ず確認しましょう。再検は年齢・病状に応じて適切な間隔で行い、数値だけでなく臨床所見を合わせて評価します。


小児のTSHとFT4の基準範囲(年齢別の目安)|しもやま内科
年齢により基準範囲が変動します。必ず検査室の基準範囲・測定法で最終判断を。

小児の基準範囲と採血の見方|年齢で変わるTSH/FT4

新生児から思春期まで、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離サイロキシン)の基準範囲は年齢で大きく異なり、さらに測定法(アッセイ)依存の差も無視できません。本ページでは、外来での実務に即して、年齢別の目安と採血・判読のコツを整理します。最終判断は必ず「検査室の基準範囲・測定法の確認」を踏まえて行ってください。


年齢で変わる目安レンジ(代表値・測定法依存)

年齢 TSH 目安(μIU/mL) FT4 目安(ng/dL) 補足
出生直後〜3日 概ね 1〜17 付近まで上昇可* 概ね 1.8〜4.1 付近* 新生児TSHサージで一過性に高値
〜10週 約 0.6〜10 約 0.8〜1.7 徐々に小児レンジへ移行
1歳前後(14か月) 約 0.4〜7.0 約 0.6〜1.4
5歳 約 0.4〜6.0 約 0.8〜1.7
思春期(14歳) 約 0.4〜5.0 約 0.6〜1.4(※法により0.8〜2.0等の設定も) 測定法差が大きい年代

* 新生児〜新生児期の参考値は報告により幅があり、上限は 12–20 μIU/mL 程度まで許容されることがあります(測定法・施設差)。FT4は出生直後に高値域となり、週単位で低下します。
※ FT4は測定法(直接測定法、平衡透析法など)で基準が大きく異なります。各施設のレンジに必ず従ってください。

重要:最終判断は、同一検査室・同一測定法の基準範囲で行います。院内・委託先をまたぐ場合、過去データとの連続性に注意してください。

採血前の注意と外来での見落としポイント

  • バイオチン影響:高用量サプリ・皮膚科領域の治療で偽低TSH/偽高FT4が起こり得ます。採血前48–72時間は中止を基本に(処方量により延長)。
  • 急性疾患・入院前後:非甲状腺疾患(NTI)ではTSH・FT4が揺れます。急性期は「待つ勇気」が必要。回復期に再検。
  • 新生児スクリーニング:低T4+高TSH(特にTSH > 20–40 mU/L)では先天性甲状腺機能低下症の精査・治療を至急検討。
  • 薬剤影響:ステロイド、アミオダロン、抗けいれん薬など。薬剤性甲状腺機能異常も参照。
  • 検体取り扱い:溶血、長時間の室温放置、再凍結などの前分析要因に留意。

結果の読み方(実務フロー)

  1. 年齢・症状で層別化:新生児/乳児/学童/思春期でレンジと症状を確認。
  2. TSHとFT4をセットで:TSH単独異常はサブクリニカルのことが多く、FT4併読が必須。
  3. 軽度高TSH(例:5–10 μIU/mL前後):年齢・抗TPO/Tg抗体、体調、肥満・ダイエット、ヨウ素負荷状況を加味。数週間〜3か月後の再検で推移確認。
  4. 再検タイミング:治療開始・増減後は4–8週でTSHを中心に再評価(年齢が低いほど短め)。
  5. 例外に注意:中枢性(TSH不適切低値+FT4低値)、バセドウ病小児、ダウン症など背景疾患では経過・指標が異なります。

よくある質問(FAQ)

Q. 新生児でTSHが高めですが、いつ評価すべき?

出生直後はTSHサージで高値となります。日単位〜週単位で低下するため、スクリーニング陽性や臨床所見があれば速やかに精査し、必要時は早期治療を検討します。

Q. 軽度TSH高値(FT4正常)の学童。治療は必要?

サブクリニカル低下症のことが多く、症状・抗体・甲状腺エコー・体格・ヨウ素摂取を総合評価。数週間〜数か月で再検し、持続的上昇や症状・学業・成長への影響があれば専門医で治療可否を検討します。

Q. バイオチンはどのくらいで止める?

一般的なサプリ量でも影響することがあり、48–72時間の中止を推奨します(高用量ではさらに延長)。

Q. 甲状腺薬開始後の再検間隔は?

年齢にもよりますが、開始・用量変更後は4–8週でTSH(+FT4)再検が目安です。


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参考文献(代表)

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  2. Soldin OP, et al. Pediatric reference intervals for free thyroxine and TSH. Clin Chim Acta. 2009.(FT4/TSHの小児レンジ;測定法差に言及) :contentReference[oaicite:1]{index=1}
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この記事の監修医師
しもやま内科 院長 下山 立志(日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年病専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医)