妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の要点(読み上げ用)
妊娠初期に一過性の甲状腺機能亢進がみられることがあります。多くは自然に軽快します。
バセドウ病との鑑別が重要で、TRAb陰性・眼症なし・甲状腺腫軽微などが手掛かりです。
- 妊娠時一過性甲状腺機能亢進症(GTT)は、妊娠初期のhCGによる一過性の甲状腺刺激で生じる。
- 多くはつわり(妊娠悪阻)に伴い、一時的に甲状腺ホルモンが上昇するが自然軽快する。
- バセドウ病との鑑別にTRAb測定が有用。
- 治療は原則不要で、支持療法が中心。胎児への影響も少ない。
- 過剰な薬物治療は不要であり、安心して経過観察できるケースが多い。

妊娠時一過性甲状腺機能亢進症とは
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症(gestational transient thyrotoxicosis, GTT)は、妊娠初期(特に妊娠8〜12週頃)にみられる一過性の甲状腺機能亢進状態です。これはhCGが甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に作用し、甲状腺ホルモン産生を一時的に亢進させるために生じます[1]。
症状と臨床像
多くは悪阻の強い妊婦に合併し、動悸、体重減少、発汗などの甲状腺亢進症状を呈します。ただし症状はつわりの一部と重なるため、甲状腺疾患として見逃されやすい特徴があります[2]。
バセドウ病との鑑別
GTTはTRAb(TSH受容体抗体)陰性であり、通常は甲状腺腫大や眼症も認めません。一方、バセドウ病ではTRAb陽性で持続的な甲状腺ホルモン高値がみられます[1][2]。このため、初診時には甲状腺自己抗体の測定と経過観察が重要です。
治療と経過
多くの症例は自然軽快するため、抗甲状腺薬は不要です。重度の妊娠悪阻に対しては補液や制吐剤などの支持療法を行います。甲状腺ホルモン値は妊娠中期以降に自然に正常化します[2]。
胎児への影響
GTT自体は胎児に悪影響を与えることはほとんどありません。むしろ過剰な薬物治療が胎児の甲状腺機能低下を引き起こす可能性があるため、不要な抗甲状腺薬投与は避けるべきです[1]。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠悪阻と甲状腺の関係は?
A1. hCGが高値となる妊娠初期に、つわりとともに一過性の甲状腺機能亢進が起こることがあります。これを妊娠時一過性甲状腺機能亢進症と呼びます。
Q2. バセドウ病とどう見分けますか?
A2. TRAb(TSH受容体抗体)が陰性で、甲状腺腫や眼症がない場合はGTTが疑われます。ホルモン値も時間とともに自然軽快する点が特徴です。
Q3. 治療は必要ですか?
A3. 原則として抗甲状腺薬は不要で、補液や制吐剤など支持療法が中心です。
Q4. 胎児への影響はありますか?
A4. GTTそのものが胎児に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。ただし抗甲状腺薬の過剰投与は胎児に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
Q5. どのくらいで治まりますか?
A5. 多くは妊娠中期以降に自然に正常化します。
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👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
参考文献
- Alexander EK, Pearce EN, Brent GA, et al. 2017 Guidelines of the American Thyroid Association for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum. Thyroid. 2017;27(3):315–389.
- 日本甲状腺学会 妊娠と甲状腺疾患の診療ガイドライン 2023.