🔊 このページの要点
甲状腺眼症(TED)は、甲状腺疾患に伴う自己免疫性の炎症で、眼球突出や複視を来します。活動期は抗炎症治療、非活動期は機能回復手術を検討します。禁煙と甲状腺機能の安定化が重要です。
- 視神経圧迫が疑われる場合は緊急の専門治療が必要です。
- 喫煙は強い悪化因子です。禁煙支援を優先します。
🔎 要点まとめ
甲状腺眼症(Thyroid Eye Disease: TED)は、甲状腺疾患に合併して発症する代表的な眼の自己免疫疾患です。眼窩組織の炎症により、眼球突出、複視、まぶたの腫れ・後退、ドライアイ、重症例では視力障害まで多彩な症状が出現します。
- 活動期:ステロイド、(適応に応じて)分子標的薬、放射線療法などの抗炎症治療を検討
- 非活動期:眼窩減圧術・斜視手術・眼瞼手術など機能回復手術を段階的に検討
- 全期間で禁煙と甲状腺機能の安定化が重要

どんな症状が出ますか?
- 眼球突出(目が前に出る感じ)
- 複視(ものが二重に見える)
- ドライアイ、異物感、充血、眼痛
- まぶたの腫れ、眼瞼後退
- 視力低下や視野欠損(重症例・視神経圧迫時)
視神経が圧迫されると、不可逆的な視力障害に至ることがあります。早期診断と治療が大切です。
原因は何ですか?
自己免疫の異常が原因です。甲状腺に対する自己抗体などが眼窩の線維芽細胞・脂肪組織・外眼筋にも反応して炎症を起こします。バセドウ病に合併することが多い一方、橋本病など他の甲状腺疾患でも生じることがあります。喫煙はもっとも重要な悪化因子の一つです。
どんな検査をしますか?
- 眼球突出の測定(ヘルテル眼球突出計など)
- 視力・視野検査、色覚検査
- 眼球運動の評価(複視の程度・制限方向)
- 眼窩MRI・CT(外眼筋や脂肪組織の腫脹・視神経圧迫の有無)
- 血液検査(甲状腺機能、自己抗体)
治療はどうしますか?
活動期(炎症期)の治療
発症から半年〜2年ほどは炎症が活発な活動期とされ、この時期の治療選択が重要です。
ステロイド療法
- パルス療法: 高用量静注を短期間集中的に実施(例:週1回×複数週)
- 経口ステロイド: 症状に応じて内服で炎症を抑制
- 局所注射: 眼窩内投与(適応・実施施設に依存)
副作用(高血糖・感染症・肝障害・心血管イベントなど)に留意し、内科的管理を並行します。
放射線治療
眼窩組織への照射で炎症細胞を抑制します。糖尿病網膜症などの合併症がある場合は慎重に適応を検討します。
分子標的薬(テプロツムマブ等)
インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)を標的とする治療で、眼球突出や複視の改善が報告されています。
※国内での保険適用・実施可否は施設や時点により異なります。適応・安全性・費用面を含め、連携先の眼科専門医と個別に検討します。
非活動期(炎症が落ち着いた後)の治療
炎症が収まっても、突出や複視、眼瞼変形が残る場合は手術的治療を段階的に検討します。
- 眼窩減圧術: 眼窩骨・脂肪減量で突出改善
- 斜視手術: 外眼筋の調整で複視改善
- 眼瞼手術: 眼瞼後退・変形の矯正
- ボツリヌス毒素注射: 筋緊張の一時的緩和(適応・保険適用は要確認)
その他の治療・生活管理
- ドライアイ対策(点眼、眼軟膏、保護メガネ)
- 禁煙支援(再燃・重症化リスクの低減)
- ストレス・睡眠管理
- 甲状腺機能のコントロール(内科での適切な治療継続)
放置しても良くなりますか?
軽症例で自然軽快することはありますが、中等症以上では放置せず、活動期の早期治療と、必要に応じた非活動期の手術で機能・整容の改善を図ります。視神経障害が疑われる場合は緊急対応が必要です。
当院での診療について
しもやま内科では、甲状腺専門医が甲状腺眼症の早期診断・全身管理に対応し、必要に応じて眼科専門医と連携して最適な治療計画をご提案します。禁煙支援や内科的合併症の管理も含め、総合的にサポートします。
📄 甲状腺眼症に関するよくある質問(FAQ)
甲状腺眼症は命に関わる病気ですか?
多くは命に関わりませんが、視神経が圧迫されると失明に至る可能性があり、早期診断・治療が重要です。
眼球突出は元に戻せますか?
活動期の治療で軽快することもあります。残存する場合は眼窩減圧術などで改善を図ります。
複視は治りますか?
活動期が収束すると軽減することもあります。残存すれば斜視手術で調整しますが、完全に消失しない場合もあります。
手術は必ず必要ですか?
すべての方が対象ではありません。症状の程度・時期・ご希望を踏まえて総合的に判断します。
新薬テプロツムマブは誰でも受けられますか?
活動期の中等症以上が想定されますが、国内での保険適用・実施体制は施設差があります。適応は専門医で個別に評価します。
治療費が高額になりませんか?
高額療養費制度などの公的支援が利用できます。必要に応じてスタッフがご案内します。
家族や職場の理解が得られずつらいです。
外見変化に伴う心理的負担は大きいものです。当院では心理面も含め丁寧にサポートします。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。