🔎 要点まとめ
- 産後甲状腺炎は無痛性甲状腺炎の一種で産後に起こりやすい
- ホルモンが急増・急減するため不調を感じやすい
- 一過性の中毒症状から低下症状まで経過にパターンがある
- 多くは自然軽快するが、橋本病へ移行する例も
- しもやま内科では産婦人科と連携した継続的フォローアップ
産後のホルモンバランス変化で起こる「産後甲状腺炎」は、出産後2〜6か月頃に多く、疲れや不安感の原因になります。症状は軽い中毒期から強い低下期まで様々で、産後うつとの鑑別も重要です。正確な診断・経過観察が大切です。

産後甲状腺炎の分類と経過パターン
産後甲状腺炎は以下のように複数の経過パターンが知られています(Nishikawa et al. Thyroid 2015)。
- ① 永続性甲状腺中毒症:バセドウ病など慢性疾患に移行するケース
- ② 一過性甲状腺中毒症:破壊性にホルモンが放出され一過性に終わる
- ③ 破壊性甲状腺中毒症:産後甲状腺炎の中毒期にあたる典型的パターン
- ④ 一過性甲状腺機能低下症:その後ホルモン低下に移行し自然軽快する
- ⑤ 永続性甲状腺機能低下症:慢性橋本病へ移行する例
特に③④が典型的な産後甲状腺炎の経過であり、⑤に移行するケースは少数ながら注意が必要です。
症状の特徴
- 中毒期(数週間〜数か月):動悸・発汗・イライラ・体重減少など
- 低下期(数か月):むくみ・疲労感・抑うつ感・体重増加など
- 回復期(1年以内):多くは自然軽快する
(出典:日本甲状腺学会 妊娠甲状腺ガイドライン2023、Nishikawa et al. Thyroid 2015)
診断方法
- 血液検査(TSH、FT4、抗TPO抗体)
- 甲状腺エコー(腫大・血流パターン確認)
- シンチグラム(必要時:ヨウ素摂取率の低下確認)
特に動悸・不眠・イライラが強いと「産後うつ」と誤解されやすく、鑑別のためにも血液検査が大切です。
(出典:日本甲状腺学会 妊娠甲状腺ガイドライン2023)
治療と予後
- 中毒期 ➡ ベータ遮断薬で動悸を抑える
- 低下期 ➡ チラーヂン補充を検討
- 大多数は1年以内に寛解しますが、5〜10%で橋本病に移行するケースあり
(出典:日本甲状腺学会 妊娠甲状腺ガイドライン2023、伊藤病院 妊娠と甲状腺疾患Q&A)
どんな時に受診すべき?
- 産後2〜6か月で強い動悸や不眠が続くとき
- 抑うつ気分や涙もろさがひどいとき
- 赤ちゃんの健診は問題ないのに、母体の不調が続くとき
自己判断での様子見では回復が遅れることもあります。早めにご相談ください。
当院の診療体制
しもやま内科では産婦人科(くらもちレディースクリニック・船橋市立医療センター産婦人科)と連携し、産後甲状腺炎の診断と経過観察、フォローアップまで切れ目なくサポートしています。
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📄 よくある質問(FAQ)
産後甲状腺炎は自然に治りますか?
多くは1年以内に自然軽快しますが、一部は橋本病として甲状腺機能低下が残る場合があります。
次の妊娠でまた再発しますか?
再発する方もいます。次回妊娠の際には事前に甲状腺抗体などを評価しておくと安心です。
産後うつとの違いは?
血液検査で甲状腺ホルモンを確認すれば鑑別可能です。気になる方はご相談ください。
授乳に影響はありますか?
基本的に授乳制限はありません。治療薬も授乳に大きな影響はありません。
子どもへの影響はありますか?
母乳を介して甲状腺ホルモン異常が移ることはありません。安心して授乳してください。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。