🔎 要点まとめ
- 甲状腺クリーゼは甲状腺中毒症の最重症型で命に関わる
- 高熱・頻脈・意識障害など多臓器不全をきたす可能性がある
- 感染症や治療中断がきっかけになることが多い
- 早期に専門医のもとで治療を開始することが重要
- しもやま内科では甲状腺専門医が緊急対応を行います
甲状腺クリーゼ(thyroid storm)は、バセドウ病などに伴う甲状腺ホルモン過剰状態が急激に悪化し、全身の臓器に深刻な障害を与える緊急疾患です。発症後はわずか数日で命に関わることもあり、早急な入院・集中治療が必要です。

甲状腺クリーゼとは?
甲状腺ホルモンが極端に増加することで多臓器不全を引き起こす「甲状腺中毒症の最重症型」と定義されます。バセドウ病の患者さんに多く、突然の感染症や手術、治療中断などの強いストレスが引き金になります。
主な症状
- 高熱(39℃以上)
- 頻脈(心拍数140以上)
- 息切れ・心不全症状
- 下痢・嘔吐・脱水
- 意識障害・錯乱状態
- 黄疸や肝障害
症状は短期間に多臓器障害として重症化するため、発見が遅れると死亡率が非常に高い病態です。
診断基準
日本甲状腺学会では、甲状腺中毒症状に加えて中枢神経障害・心不全・発熱・消化器症状などを伴う重篤な状態を「甲状腺クリーゼ」と定義しています。
診断の目安としては、Burch-Wartofskyスコア(BWPS)が広く用いられます。以下の項目を点数化し、合計45点以上で甲状腺クリーゼを強く疑います。
📊 Burch-Wartofskyスコア(BWPS)評価表
評価項目 | 評価内容 | 点数 |
---|---|---|
体温 | 37.2〜37.7℃ = 5点、37.8〜38.3℃ = 10点、38.4〜38.8℃ = 15点、38.9〜39.4℃ = 20点、39.5℃以上 = 30点 | 最大30点 |
中枢神経症状 | 軽度(興奮・不安)= 10点、せん妄 = 20点、てんかん発作 = 30点、昏睡 = 30点 | 最大30点 |
心拍数 | 90〜109回/分 = 5点、110〜119 = 10点、120〜129 = 15点、130〜139 = 20点、140以上 = 25点 | 最大25点 |
心不全 | 軽度(下肢浮腫)= 5点、中等度(肺ラ音)= 10点、重度(肺水腫)= 15点 | 最大15点 |
消化器症状 | 下痢・悪心・嘔吐・腹痛 = 10点、黄疸 = 20点 | 最大20点 |
甲状腺中毒の誘因 | あり = 10点(例:感染症・手術・抗甲状腺薬中断など) | 10点 |
🧮 判定基準
- 45点以上:甲状腺クリーゼの可能性が高い → 早急な治療が必要
- 25〜44点:甲状腺中毒症の可能性 → 経過観察と追加評価
- 25点未満:甲状腺クリーゼの可能性は低い
出典:
Burch HB, Wartofsky L. “Life-threatening thyrotoxicosis. Thyroid storm.” Endocrinol Metab Clin North Am. 1993;22(2):263–277.
日本甲状腺学会『甲状腺中毒症診療ガイドライン2022』
原因・きっかけ
- 抗甲状腺薬の服薬中断
- 感染症(肺炎・尿路感染など)
- 外傷・手術・精神的ストレス
- 分娩後・産褥期のホルモン変化
治療と予後
甲状腺クリーゼは緊急入院の上で、多職種連携の集中治療が必要です。主な治療は以下の通りです。
- 抗甲状腺薬(メチマゾールなど)の大量投与
- 無機ヨウ素剤でホルモン放出抑制
- 副腎皮質ステロイド
- β遮断薬で頻脈抑制
- 必要に応じて血液浄化療法
死亡率は15〜30%と報告されており、早期治療開始が予後改善に直結します。
(出典:日本甲状腺学会 甲状腺中毒症診療ガイドライン2022)
再発予防とフォロー
甲状腺クリーゼは命に関わる緊急疾患であり、再発を防ぐためには継続的な管理が欠かせません。以下の点に注意して日常生活を送ることが重要です。
- バセドウ病の寛解維持
甲状腺クリーゼの多くはバセドウ病の未治療・再燃により引き起こされます。
寛解後もホルモン値・TRAbなどを定期的に評価し、必要に応じて内服再開を検討します。 - 感染症の早期対応
インフルエンザ、肺炎、尿路感染症などの発熱はクリーゼの引き金になります。
発熱・咽頭痛・咳などがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 - 抗甲状腺薬の中断を防ぐ
内服の中断や自己判断での中止は再発の大きなリスクです。
副作用が心配な場合も、自己判断せず医師に相談しましょう。 - 定期的な甲状腺ホルモン検査
TSH、FT4、FT3のモニタリングにより、無症候性のホルモン異常も早期に発見できます。
特に高齢者や再発歴がある方は厳密な管理が推奨されます。
出典:
日本甲状腺学会『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン 2022』、MSDマニュアル プロフェッショナル版「甲状腺クリーゼ」、UpToDate “Thyroid storm: Treatment and prognosis”
当院の診療体制
しもやま内科では、甲状腺専門医がバセドウ病患者さんの管理を行い、クリーゼ発症予防を重視した診療を提供しています。重症例については連携病院の入院治療を速やかに手配し、地域の救急体制とも連携して対応しています。
バセドウ病の症状・治療の詳しい解説ページ
📄 よくある質問(FAQ)
甲状腺クリーゼはどのようなときに起こりやすいですか?
バセドウ病の治療中断、感染症(肺炎、尿路感染など)、外傷、手術、出産など強いストレスが引き金になります。特に抗甲状腺薬を自己判断で中断した場合は注意が必要です。
クリーゼと診断されたら入院が必要ですか?
はい。救命処置が必要な緊急疾患であり、多くの場合はICU管理となります。内服や外来治療では対応できません。
甲状腺クリーゼの予後はどうですか?
早期治療により回復が可能ですが、致死率10〜20%と報告されています。診断の遅れや治療の遅延が命に関わるため、迅速な対応が重要です。
どのような検査で診断されますか?
血液検査でFT3/FT4高値・TSH低値を確認し、Burch-Wartofskyスコアや臨床症状を組み合わせて総合的に診断します。
一度クリーゼになると再発しますか?
適切な甲状腺機能のコントロールができていれば再発のリスクは低くなります。ただしバセドウ病の再燃や治療中断があると再発リスクが高まります。
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👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。