糖尿病内科

SGLT2阻害薬とケトン体 その2

13/08/2016

SGLT2阻害薬とケトン体 その2

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EMPA-REG Outcomeで認められた死亡率低下の要因だが、血中ケトン体が心保護作用を示すかどうかについては、ケトン体酸化のデータを必要としている(Cell metabolism) 。酸素一原子あたりATP産生率で、β-hydroxybutyrate (βOHB) は脂肪酸より良いが、グルコースより低い。(グルコース>βOHB>脂肪酸) グルコース、βOHB、脂肪酸はすべて、TCAサイクルの Acetyl CoA と競合する。βOHBの利用が増加した場合、グルコースの利用が低下し、cardiac efficacy は低下するはずだ。 SGLT2阻害薬を服用した2型糖尿病患者で、心筋でのケトン体利用がエネルギー効率を改善させよるかどうかは、ケトン体酸化のデータを必要としている。 βOHBが、ヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylase (HDAC)) を阻害し、酸化ストレス低下させる。酸化ストレスの改善は、cardiac hypertrophy signaling を低下させる。

Lopaschuk GD, Verma S. Empagliflozin's Fuel Hypothesis: Not so Soon. Cell Metab. 2016 Aug 9;24(2):200-2. doi: 10.1016/j.cmet.2016.07.018.
http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(16)30364-3

Shimizu T et al. Suppression of oxidative stress by β-hydroxybutyrate, an endogenous histone deacetylase inhibitor. Science. 2013 Jan 11;339(6116):211-4.
βOHBは、histone deacetylase を阻害し、oxidative stress resistant factor FOXO3A and MT2の転写活性を調節している。
βOHBを投与したマウスの腎臓で酸化ストレスが低下している。

SGLT2阻害薬が糖毒性解除のために有効であることは良く知られているが、高血糖によるケトーシスを来たしている患者さんに処方する場合は注意が必要だ。

先日、こんな症例があった。随時血糖500mg/dl台、HbA1c13%の患者さんが、ある糖尿病内科クリニックを受診した。入院を勧められたが、同意せず。飲水励行しつつSGLT2阻害薬を処方。ここまでは想定内。しかし、その患者さんは(本人なりに気合いを入れた結果であり、責める気はないが)炭水化物を一切絶って頑張った。当院に紹介状を持って受診した際にはひどいケトーシスだった。高血糖で(糖毒性によって)インスリン作用不足になっている場合には脂肪酸の異化が進行する(ブドウ糖を燃やせないので脂肪を燃やして生きるしかない)。このやり方では脂肪酸の異化が亢進しケトーシス、ケトアシドーシスになる。炭水化物ゼロはダメだし、入院出来ないならせめて基礎インスリンだけでも併用すべきだろう。

SGLT2阻害薬を処方する際には過激な炭水化物制限をしないように、良く説明する必要がある。

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