甲状腺がんの種類と治療の見取り図
甲状腺がんは主に乳頭癌・濾胞癌・髄様癌・未分化癌に大別されます。分化癌(乳頭・濾胞)は手術が基本で、病理・病期に応じてRAIやTSH抑制を追加。髄様癌はカルシトニン・CEAによる評価とMEN(遺伝学的検査)との連携が重要。未分化癌は迅速対応が必要です。

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全体像:
- 乳頭癌・濾胞癌(=分化癌):手術 → 病理リスクに応じ RAI ± TSH抑制
- 髄様癌:手術(RAIは無効)/カルシトニン・CEAで評価/MEN2の遺伝子検査
- 未分化癌:病期評価後に集学的治療(手術・放射線・薬物療法を迅速検討)
乳頭癌(Papillary Thyroid Carcinoma; PTC)
- 疫学・特徴:最も頻度が高い。リンパ行性転移が多いが、予後は概ね良好。
- 治療の基本:腫瘍径・多発性・反対葉病変・リンパ節転移で手術範囲を選択(葉切除 vs 全摘)。
- 術後:病理リスクに応じてRAI(高リスク中心)/TSH抑制を検討。
濾胞癌(Follicular Thyroid Carcinoma; FTC)
- 特徴:血行性転移(肺・骨)に注意。被膜・血管侵襲の有無で悪性確定。
- 治療:全摘が選ばれることが多く、RAIの有効性を期待できる分化癌。
- フォロー:サイログロブリン(Tg)と画像で再発監視。
髄様癌(Medullary Thyroid Carcinoma; MTC)
- 特徴:傍濾胞細胞(C細胞)由来。カルシトニン・CEA上昇。RAIは無効。
- 治療:手術が基本。頸部リンパ節郭清の適応を術前の値・画像で検討。
- 遺伝:MEN2関連(RET変異)を念頭に遺伝カウンセリング・家族スクリーニング。
未分化癌(Anaplastic Thyroid Carcinoma; ATC)
- 特徴:進行が速く、局所浸潤・遠隔転移を伴いやすい。
- 対応:気道評価を含む迅速な病期判定。集学的治療(可及的切除・放射線・全身治療)を早期に協議。
病期(Stage)と予後の考え方
- 分化癌:病期は年齢・腫瘍径・被膜外浸潤・リンパ節/遠隔転移で決定。若年の予後は良好。
- 髄様癌:カルシトニン・CEA動態と画像で残存・再発を評価。
- 未分化癌:病期にかかわらず予後不良で、症状緩和と安全確保が重要。
手術範囲の目安
- 葉切除:小径、片葉限局、低リスクで神経・副甲状腺温存を優先する際。
- 全摘:多発・両葉病変・高リスク・RAI前提の場合。
- 郭清:臨床的リンパ節転移がある頸部領域を中心に計画。
※ 実際の方針は、腫瘍の局在・画像・病理・全身状態、患者さんの希望を総合して決定します。
放射性ヨウ素治療(RAI)の適応
- 対象:主に分化癌(乳頭・濾胞)。髄様・未分化は適応外。
- 目的:残存甲状腺のアブレーション/微小転移の治療。
- 適応判断:腫瘍径、被膜外浸潤、リンパ節/遠隔転移の有無、病理リスクで総合判断。
TSH抑制療法(レボチロキシン)
- 狙い:TSH刺激を抑えて再発リスクを低下。
- 適用:分化癌でリスク層別に目標TSHを設定(高リスクほど低TSHを目指す)。
- 注意:高齢・心疾患・骨粗鬆症では過度の抑制に注意。フォローアップ下で調整。
ご相談ください:腫瘍タイプ・病期・年齢・合併症で最適解は変わります。方針に迷う場合は、当院でまず超音波と採血を行い、必要に応じて手術・RAI・遺伝学的検査の連携を速やかに進めます。
よくある質問
分化癌でRAIは必ず必要ですか?
いいえ。リスク層別で不要〜推奨まで幅があります。病理結果と病期で個別判断します。
髄様癌ではRAIは効かないの?
髄様癌はC細胞由来でヨウ素取り込みがないため基本的に無効です。手術と腫瘍マーカーでの管理が中心です。
TSH抑制は一生続けますか?
再発リスクが下がれば目標TSHを緩めることがあります。副作用(動悸・骨粗鬆症)に配慮して調整します。
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長/日本甲状腺学会 甲状腺専門医 ほか
しもやま内科 院長/日本甲状腺学会 甲状腺専門医 ほか
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