🔊 このページの要点
T3症候群(Low T3症候群)は、重症疾患・慢性疾患・栄養状態などの影響でT3だけが低くなる状態で、非甲状腺疾患症候群(NTIS)とも呼ばれます。甲状腺自体の病気ではないことが多く、原則として甲状腺ホルモン補充は不要で、背景にある病気や全身状態の評価が最も重要です。
- 血液検査で「T3が低い」と言われた場合も、まずTSH・FT4・全身状態を総合的に評価します。
- 橋本病・バセドウ病など本当の甲状腺疾患との鑑別が重要で、自己判断でのホルモン内服はおすすめできません。
T3症候群(Low T3症候群)とは?
🔎 要点まとめ
- 非甲状腺疾患症候群(NTIS)は、重症疾患・慢性疾患・栄養障害などの影響で血中T3が低下する状態(旧称:Euthyroid Sick Syndrome=ESS)です。
- 甲状腺自体の病気ではなく、身体がエネルギー代謝を抑えている二次的な変化と考えられます。
- 入院患者・高齢者・がん・心不全・慢性腎不全・栄養不良などで多く見られます。
- 原則として甲状腺ホルモン補充は行わず、背景にある病気や全身状態の管理が最優先です。
- しもやま内科では、甲状腺専門医が検査結果の意味づけと、甲状腺疾患との鑑別を丁寧に行います。
T3症候群(Low T3 Syndrome)は、医学的にはNon-thyroidal illness syndrome(NTIS)と呼ばれ、かつてはEuthyroid Sick Syndrome(ESS)と表現されてきた概念です。
甲状腺ホルモンのうちT3(トリヨードサイロニン)だけが低下し、重症感染症や心不全、がん、腎不全、長期の絶食・栄養障害、外科的侵襲など、全身への大きなストレスが誘因になります。
多くの場合、TSHやFT4は保たれている、あるいは軽度の変化にとどまるため、甲状腺自体の病気ではなく、全身状態に伴う「ホルモンの二次的変化」と考えられています。
どんなときにT3が低くなる?(NTISの出現状況)
- 重症感染症・敗血症・多臓器不全
- 進行した心不全や心筋梗塞後
- 慢性腎不全・透析中
- 悪性腫瘍(特に進行がん)
- 栄養失調・長期間の絶食・極端なダイエット
- 高齢者の長期入院・終末期医療の場面 など
このような全身ストレス下では、FT3の低下が最も早く、強く現れることが多く、T3低下そのものが「状態が重いサイン(予後不良のマーカー)」として扱われることもあります。
出典:甲状腺疾患診療マニュアル(日本甲状腺学会, 2019)p.105–106、Fliers E et al. J Endocrinol Invest. 2021;44(4):1041–1053
なぜT3だけが低下するの?(病態のイメージ)
体内では、甲状腺から分泌されるT4(サイロキシン)が肝臓や筋肉などでT3に変換され、実際の作用を発揮します。全身の炎症・ストレス・サイトカインの影響などで、このT4→T3への変換酵素(脱ヨウ素酵素)の働きが低下すると、T4は保たれたままT3だけが低くなる現象が起こります。
身体が「エネルギー消費を抑えて、冬眠のような省エネモードに入っている」イメージで説明されることもあります。
出典:甲状腺疾患診療マニュアル(日本甲状腺学会, 2019)p.106、Fliers E et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(2):512–523
T3症候群と「本当の」甲状腺機能低下症の違い
- T3症候群(NTIS):T3が低いが、TSHは正常〜低め、FT4も大きな低下はないことが多い。
- 甲状腺機能低下症:TSHが高く、FT4が低い(または境界域)ことが特徴。橋本病などの甲状腺疾患が背景。
検査用紙で「T3だけ低い」と書かれていると不安になりますが、多くの場合はTSH・FT4・臨床症状を合わせて判断します。
T3症候群の方に甲状腺ホルモンを補充しても、予後が改善しない、むしろ悪化する可能性があるとされており、日本甲状腺学会のガイドラインでも安易なホルモン補充は推奨されていません。
診断のポイント(検査で見るところ)
- FT3のみが低値で、TSH・FT4は正常範囲〜軽度低下にとどまる。
- 甲状腺エコーで構造的な異常がない(腫瘍・慢性甲状腺炎の所見など)。
- 甲状腺自己抗体(抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体)は陰性であることが多い。
- 同時に、栄養状態・炎症反応・心機能・腎機能・がんの有無など全身状態を評価する。
これらを踏まえ、「甲状腺の病気」なのか、「全身状態に伴うホルモン変化」なのかを見極めることが大切です。
出典:甲状腺疾患診療マニュアル(日本甲状腺学会, 2019)p.107、Wartofsky L et al. Endocr Rev. 1982;3(2):164–217
治療は必要ですか?(T3症候群の治療方針)
原則として、T3症候群そのものに対する甲状腺ホルモン補充治療は行いません。身体がエネルギー代謝を節約している「適応反応」の可能性が高く、T3を外から補っても
予後が改善しない、あるいは悪化する可能性があるとされています。
- まずは背景にある病気(心不全・感染症・がん・腎不全など)への治療が最優先です。
- 栄養状態の改善・食事量の是正・過度なダイエットの見直しも重要です。
- TSH・FT4・FT3の推移を追い、全身状態の改善とともにT3がどのように変化するかを見ていきます。
出典:
Fliers E et al. “Thyroid function in critically ill patients.” J Endocrinol Invest. 2021;44(4):1041–1053/
日本甲状腺学会『甲状腺疾患診療マニュアル』2019年版(p.106–108)/
Wartofsky L et al. “The low T3 syndrome in nonthyroidal illness.” Endocr Rev. 1982;3(2):164–217
どのような場合に受診を検討すべき?
- 健診や他院で「T3が低い」と言われ、不安が続いている。
- 体重減少・食欲低下・慢性的な体調不良があり、原因を確認したい。
- がん・心不全・腎不全などを抱えており、甲状腺ホルモンの異常を指摘された。
- TSHにも異常があり、「甲状腺機能低下症なのかどうか」を確認したい。
検査値だけを見て自己判断するのではなく、症状・背景疾患・他の検査所見を総合的に評価することが重要です。
しもやま内科で可能な検査と評価
しもやま内科(船橋市)では、甲状腺専門医が以下のような検査を組み合わせて評価を行います。
- 甲状腺ホルモン検査:TSH・FT4・FT3
- 甲状腺自己抗体:抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体
- 甲状腺エコー検査(当日実施可能なことが多いです)
- 肝機能・腎機能・炎症反応(CRP)
- 栄養状態の指標(アルブミン・フェリチンなど)
必要に応じて、甲状腺検査のページや、
甲状腺の症状まとめページもあわせてご覧ください。
📚 参考文献・出典
- 日本甲状腺学会 編. 甲状腺疾患診療マニュアル 2019. 南江堂. pp.106–108.
- Fliers E, Bianco AC, Langouche L, Boelen A. Thyroid function in critically ill patients. J Endocrinol Invest. 2021;44(4):1041–1053. doi:10.1007/s40618-020-01447-y
- Wartofsky L, Burman KD. Alterations in thyroid function in patients with systemic illness: the “euthyroid sick syndrome”. Endocr Rev. 1982;3(2):164–217. doi:10.1210/edrv-3-2-164
- Marti HP, Kaplan MM. Thyroid hormone alterations in severe illness. Semin Nephrol. 1996;16(1):41–55.
📝 よくある質問(FAQ)
T3が低いと言われました。必ず治療が必要ですか?
多くのT3症候群(NTIS)では、甲状腺ホルモン補充は原則不要です。全身状態や背景疾患の評価・治療を優先し、必要に応じて専門医と相談しながら経過を見ていきます。
倦怠感やだるさは、T3が低いせいでしょうか?
倦怠感は、甲状腺以外にも心不全・貧血・栄養障害・睡眠障害・うつ状態などさまざまな原因で起こります。T3低下だけで説明できないことが多いため、全身的な評価が大切です。
甲状腺機能低下症との違いがよく分かりません。
甲状腺機能低下症ではTSHが高く、FT4が低いことが特徴です。一方、T3症候群ではTSHは正常〜低め、FT4は保たれていることが多く、甲状腺そのものの病気とは区別して考えます。
T3を上げるサプリメントや食事で改善できますか?
サプリメントで直接T3を上げることはおすすめできません。極端な食事制限を避け、バランスの良い食事・適度な休養・十分な睡眠を心がけることが、結果的にホルモンバランスの安定につながります。
妊娠を希望していますが、T3が低くても大丈夫でしょうか?
妊娠希望の方では、特にTSHとFT4が重要です。T3が軽度低下していても、TSH・FT4が適正範囲にあり、全身状態が良好であれば問題ないことも多いです。個別に評価が必要ですので、甲状腺専門医へご相談ください。
しもやま内科では甲状腺専門医が在籍し、検査値と症状・背景疾患を総合的に評価します。
「T3が低いと言われて不安」「治療が必要なのか知りたい」といったご相談もお受けしています。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。